父と暮らせば-ブラームス-クラリネット五重奏曲 [映画-音楽]
宮沢りえという女優は、屈折せざるを言えなかった過去をもう完全に振り切ることはしないで、その細身の体にすっぽりと全てを包み込んで佇んでいる。
かつての若やいだ鮮烈さと斬新でコケットな、生のままの魅力ではなく、芯のあるしなやかさがスクリーンからはずれた部分でも空気みたいに存在している。
この映画は原爆投下後3年を経た主人公の生き様をほのぼのとした内省から現れる父の幻影(=幽霊原田芳雄)との対話の中に凄惨な悲劇の中から明るい日射しの中へ歩み出す女性の姿を優しいタッチで描いている。
原作には出てこない人物、原爆資料を収集している木下(浅野忠信)を原爆という過去と心を捉える未来の希望として配置し、意識の綾を恋と明日へのほのかな希望と、愛するものを一瞬にして失い、自分だけが生き残った戦争の悲惨と後ろめたさの両翼から折り合わせて進めてゆく。
ブラームスのクラリネット五重奏曲はその中でしっとりと心象を支え、無言のフォーマットを作り上げる。
音楽と映像が溶け合った瞬間がここにもあった。
登場人物が極めて少ない原作の姿をふまえ、3人に絞った構成がシンプルで見るものに背景に思いを馳せるゆとりを与えてくれる。
名匠黒木和雄の戦争3部作の最後の作品としてふさわしい静かな物語です。
2007-10-11 06:18
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