哀愁のトロイメライ [映画-音楽]
出色の出来映え!
先日ケン・ラッセルのマーラーでこけたばかりだったので(その前の「若き日のトスカニーニ」に至っては書く気にもならなかった)、あんまり期待していなかったけど、配役が半端じゃなかったので『もしや…』と思って観てみた。
基本的にロマンスものという設定だけれど、全てが本気の映画でした。
ナスターシャ・キンスキーのクララ・シューマンはヘルベルト・グリューネマイヤーのロベルトとともに、まさにはまり役でした。芸術家としての敬意と男と女としての愛情の交錯する中で、その心情を映し出し、歌い紡ぐピアノのシーンで、代役の指がポロポロでたり、感に堪えぬような弾いた振りの演奏などはどこにもなく、そこにある愛とピアノのロマンティックな歌が絶妙なシーンを作り出します。
病んで行く影が時折眉間に見えるロベルトの指先が聴かせるトロイメライの旋律は、妥協のない役者根性の賜でしょうが、見事でした。というより、本業がピアニストであるこの人の演技の努力に拍手を送るべきなのでしょうか。
キンスキーのピアノも見事です。
天才女流ピアニストを演じるに、破綻のない見事さで、かつて映画『コンペティション』でリチャード・ドレイファスの、ピアノを弾いたことのない役者の、ピアニストの演技を観て、憤然と席を蹴って有楽町のシネマ1を出た頃をふと思い返しました。
美しく、しかも自然に流れる感情に寄り添う音楽達。
音楽家に限らず、芸術家を描く映画は、ともすればエキセントリックになりがちですが、この映画は素晴らしいです。
ニコロ・パガニーニ役にはこれ以上に合う人がいないだろうという現代を代表するヴァイオリニスト、鬼才ギドン・クレーメルが扮しています。
あんまりドンピシャリなので笑ってしまいました。
この人は素でも、十分にパガニーニのような悪魔的雰囲気を漂わせる人ですが、喜んでやってますね。
上手いのは当たり前ですが、本気で作った映画だとよっくわかります。
本当のギドンはシャイな人だけど、あの上唇と下唇の厚さが同じ大きな口を開けて笑うと悪魔的です。
(奥さんのエレナはきれいな人だったけど西側に来て別れたのかな?夫婦で録音したシューベルトの幻想曲は出色でした。)
音楽のクオリティが高く、そばに置いて何度でも観返せるそんな映画でした。
- アーティスト: クレーメル(ギドン), ロックバーグ, ミルシテイン, シュニトケ, エルンスト
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2006/01/13
- メディア: CD
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