SSブログ

トムソーヤの小屋 [One's Boyhood story]

裏山の傾斜に斜めに生えた樫木があった。
幹から三つ又に分かれた太い枝の上に板を敷くと子供が5人と犬が一匹いられるくらいのスペースがあった。
周りは背の低い竹の林で、ボクは竹に花が咲くのをその場所で知った。
僕らは日曜になると習い事や草野球や泳ぎや釣りを楽しんだ後、バラバラとその木に集まり、買って貰って間もない
ナイフで竹を削り、蔦のシンを削りだして竹に詰め、吹き口を工夫して縦笛を作った。
もちろん音階なんてちゃんとしていなくて、ただ音が出るという代物だけれど。
いろんな子供達がてんでに捨てられていたり、自分の家に置いてあった杉板やベニヤ板を持ち寄り、樫の木に釘を打
ち付け、少しずつ小屋らしくしていった。
当時は今ほど蚊がいなかったように思う。 
父や友達の父親は子供達にナイフは買い与えても、マッチは絶対に使わせなかった。
だから年長者がいないグループ
では火を使うことはなかったし、浜辺で浜焼きをするとき以外その必要もなかった。
ボクの犬も仲間だったが、木の上にあがるには下から支えて持ち上げ、上にいる友達に引っ張り上げて貰わなければ
ならなかった。
犬はボクと同じ遊びをしなければ気が済まないらしく、上がりたがるくせにすぐに飽きて山を駆け回る本能に支配さ
れ、断固として木から下りようとし、手伝ってやらなければ自分から飛びおりた。
平坦な場所ではない。
犬だって転がり落ちる。
でも、すぐに立ち直って、竹林の中をザザ、ザザ、と音を立てて駆け回り、メジロやスズメを追い立てていた。
その木の上でボクらは何の話しをしていたのだろう。
あまり覚えていない。
きっとわざわざそこで話さなくてもいいような、なんてこともない話しだったに違いない。
その裏山の傾斜のすぐ下には、ボクが貰ったイチジクの木があり、時々降りていっては2.3個とって小屋に上がり
込んだ。
でも、いつの頃か僕らの興味は釣りや映画やいろんな変化を経験し、誰からともなく、自分の弟や妹を連れてきたり
、新しい近所の子供達を連れてきたりしていた。
それは僕らが山から降りる準備のようなものだった。
小学校の生活が残り少ない夏、読み散らかした漱石をベッドにうっちゃって、耳を澄ましていると数人の小さな歓声やふざけ合う声が、木々の茂った裏山の斜面から聞こえてきた。
ボクらが卒業した秘密基地は、後輩達が改良し、その頃まだ続けられていた。
秋になって、隣のお婆さんの裏庭に入り、小屋のかかっている樫木を見上げると厚い段ボールの紙に「『トムソーヤ
の小屋』立ち入り禁止!」と、赤と黒のマジックインキで大きく看板が掲げてあった。
合い言葉も変わり、メンバーも替わったその小屋は驚いたことにボクが中学2年の頃まで、そこにあった。
でもやがて台風で樫の木の大きな枝が近所の家の屋根に折れかかり、市は人を雇って樫木を幹から3メートル残して
切り取ってしまった。
当然持ち主でもない子供達に知らされるはずもない。
夏の終わり、ベッドの側の開けはなった窓から、小学生達の落胆と怒りの入り混じった会話が聞こえていた。
落石予防のため、山の斜面にはコンクリートの壁が出来、子供達が作った秘密の通路はことごとくふさがれた。
ボクらの裏山は煩わしい子供達の嬌声や歓声や様々な遊びから解放された。
市はかわりにボクらの裏山の見晴らしに鉄とプラスティックのブランコやジャングルジムを作った。
子供達が木によじ登り、ロープを架けて作ったターザンブランコよりも遙かに安全だと、大人達は考えたのだろうね

町中の公園にあるような、その遊具たちは、ほとんど使われることはなく、朽ち錆びてまだそこにある。
今、ボクも払っている税金で仕事をしている大人達は、いくつかの委員会をつくり、孤立した子供達の子供らしさを
取り戻すために頭をひねっている。
子育てに懸命の親たちは集団で行動することの大切さを学ばせるためと称して、学校が終わったその瞬間から子供
達をいろんなスポーツクラブや、野球チームに入れ、夜遅くまで彼らを応援している。
彼らの子供の頃の生活にはきっとトムソーヤの小屋はなかったのだろうし、大人を介さない世代交代の儀式なんて知
らないで育ったのだろう。
たまに自然と親しませると称して、キャンプに連れてゆく。
でも、今も、ボクらの町には自然が溢れていることを彼らは忘れている。
トムソーヤの小屋はその気になればいくらでも作れる大きな木がたくさん残っている。
でも、大人達は子供達に対して、時間を与えることも必要な危険を容認する忍耐も持っていない。
裏山から子供達の声が消えてから数十年が流れた。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。