敬愛なるベートーヴェン [映画-音楽]
遅まきながらCopying Beethoven『敬愛なるベートーヴェン』を観ました。
古典音楽ものでは近年にない、しっかりしたつくりになっている。
ベートーヴェンの最晩年を描くため、虚実を織り交ぜてゆくが、音符と音符の間の静謐に関して、晩年の彼の作品に感じる非作為とも思える、情緒的な静けさと内省的な美が混然となった作風が語られる。
写譜師として雇われながらエド・ハリス扮する野卑で内面に深い精神性を湛えたベートーヴェンのその強烈な音楽への情熱に惹かれてゆく主人公アンナ(ダイアン・クルーガー)が、ある意味ピエレットの役割をこなしつつ104分間を釘付けにしてくれる。
音楽は大フーガから始まり、彼の死から始まります。
音楽映画としてはベートーヴェンの死の間際に絞ったため、エリーゼを除き流れる音楽に華やかさはありません。
ピアノ協奏曲第4番の瞑想的な緩徐楽章。
ピアノ・ソナタ第32番のジャズのようなリズムの響き。
弦楽四重奏曲第14番のアダージオ・クワジ・ウン・ポコ・アンダンテの澄み切った哀しみからフィナーレのアレグロの輝きの数瞬。
かすかに聞こえる交響曲第7番の葬送のアレグレット。
そして弦楽四重奏のための大フーガがここでは独立した作品として登場します。
この作品の中心をなす第九交響曲の初演場面指揮台で孤立するベートーヴェンに読譜しながらリズムと出を教えるため、アンナが第2ヴァイオリンの後ろから指揮してみせるシーンは情緒的なのですが、音楽を指揮というマイムを通しての会話のように見せていて、直接的で感動的且つ非常にロマンティックに描かれていました。
でも、僕が好きなのは回想シーンでの終わり近くです。
ベートーヴェンが語る無調の音楽の構成と流れを聴き取りをするアンナの背後から、二人の頭の中に響いている音楽のように聞こえる音楽。
その弦楽四重奏曲第15番のモルト・アダージオは、静かに感動的な信頼と敬愛を、音楽という共通の意図で結ばれたもの同士だけの暖かい世界を感じさせました。
ベートーヴェンの死後、彼がアンナに勧めたとおり、第6交響曲を生んだ森に小屋を建てた彼女が開け放したドアを出て、かすかに聞こえてくる第9の合唱の中で、逆光の草原を歩いてゆくところで映画は終わります。
音楽のとらえ方が一貫していて僕は好きな映画ですね。
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