2009.11.30
愁曲 [映画－音楽]
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- メディア: DVD
『短くも美しく燃え』というスウェーデン映画をボクが観たのはその映画が１９６７年に公開されてから、数年後であったと思う。
僕が通っていた高校から電車通りをしばらく歩いていった場所にあった場末の３本立ての映画館で、どっかの文化系のクラブの高校生男女数人で観に行ったのをかすかに覚えている。
僕は隣に座って瞬きをせずにスクリーンを見つめているちょっとそばかすのあるコケットな眼鏡ッ子のレンズに映る小さなピア・デゲルマルクの金髪とベルベットの黒いリボンを観ていた。
そのテーマがモーツァルトの有名なピアノ協奏曲の第２楽章であることはまだその時は知らなかった。
二度目にその曲を聴いたのは、東京の学生街で喫茶店で、後期試験の準備をしている時だった。
担当の教授の出版した本を図書館で探し、いかにも「ボクはあなたの本を読みました」とのサインを送るために、その教授が使う独特のフレーズを探しているとき、茶店内のＢＧＭのジョン・コルトレーンが終わり、何故か、次のリクエストはクラシックのピアノ曲でした。
ボクはモーツアルトのＫ．４６７（後で知ったのですが）の第一楽章のアインガングの美しさに思わず耳を奪われ、ト短調交響曲に似た主題の回帰にどきりとするほどのノスタルジーを覚えました。
暗い店内のカウンターに立てかけられた「現在再生中」のレコードにはディヌ・リパッティのピアノであることがかすかに見えました。
その聞き覚えのなかった第１楽章の少し駆け足のカデンツァの美しさに聞き惚れていたボクが、もう一度本に戻ろうとしたとき、あの、アンダンテが始まったのでした。
『あ、この曲』
………とボクはその時知らなかった知識が瞬間的に掘り起こされた記憶の中から浮かび上がってくる、鳥肌が立つような感動を覚え、周りを思わず見渡しました。
そこにいるはずのないかつて観た映画館での帰り、すっかり暗くなった夜空にあった満天の星を一緒に眺めた仲間達を思いだし、
汽車で通うボクを改札で見送ってくれた女の子を思い出したのでした。
その時、ボクはあの頃の、あの時代の既に失ってしまった仲間との音信を、取り戻せないと知りつつ、その晩痛みにも似た焦燥に駆られ、綿々と綴って、ふるさとで働いている友人に書き送ったのでした。
ボクはレコード店にゆき、ジャズを薦めてくるいつもの店員を制して、真っ直ぐにクラシックレコード売り場に直行し、買い求めたブレンデルの弾くモーツアルトの２１番協奏曲に包まれながら、
その夜、「今年の冬は田舎に帰ろう」と決めたのでした。
モーツアルト／ピアノ協奏曲第２１番ハ長調Ｋ．４６７
第１楽章 アレグロ
第２楽章 アンダンテ
第３楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイ
- アーティスト: ブレンデル(アルフレッド),モーツァルト,マリナー(サー・ネヴィル),アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2004/06/30
- メディア: CD
- アーティスト: グルダ(フリードリヒ),モーツァルト,アバド(クラウディオ),ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2001/10/24
- メディア: CD
- アーティスト: 内田光子,モーツァルト,テイト(ジェフリー),イギリス室内管弦楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2005/06/22
- メディア: CD
ショパン:ピアノ協奏曲第1番&モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番
- アーティスト: リパッティ(ディヌ),ショパン,モーツァルト,アッカーマン(オットー),カラヤン(ヘルベルト・フォン),チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団,ルツェルン音楽祭管弦楽団
- 出版社/メーカー: EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
- 発売日: 2007/09/26
- メディア: CD
- アーティスト: ピリス(マリア・ジョアン),モーツァルト,アバド(クラウディオ),ヨーロッパ室内管弦楽団,ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2002/09/25
- メディア: CD
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