追っていたもの [音楽]
シューベルト/弦楽四重奏曲断章ハ短調D.703 <遺作>
アレグロ・アッサイ
例によってというか、シューベルトには仕上がった作品に匹敵するくらい途中で放棄した作品がある。
もういい加減聴いたと思ったピアノ曲からはまだまだ積み重なった誇りを一拭きするだけで、瑞々しい光を放つ破片がいくつも残っている。
さすがに重奏ともなるとそういった作品は少なくなる。
特に後期の彼の作品には完成していようがしていまいがドイッチェ番号がついていたりする。
この作品は一楽章のみが残っている。
なのに第12番という通し番号がついている。
破格である。
彼は弦楽四重奏についてはベートーヴェンと並木ひとつ隔てて独自の径を歩いた作曲家であり、初期から後期という同様の年輪を己が内省に刻んでいる。
彼ら以後の作曲家は弦楽四重奏曲についてはそのほとんどがベートーヴェンやシューベルトの到達点から出発する。
それ故にただ一人バルトークを除いて、少なくてたった1曲多くて4曲程度の作品で煮詰まってしまう。
(国家的製作により創作活動が左右された国は別なんだけど。)
彼我にある埋めようのない音楽的骨格の脆弱性ゆえに以後の音楽は音楽の核心を包む抒情や情動にウエイトを置き始める。
この曲は非常に厳しい高域のアンサンブルから緩やかに舞い降りるように歌へ移りつつ低音の細かなビブラートの中に幾筋もクッキリと彫り込まれたリズムが異なる角度から交響的に集う。
全く異なるアプローチから意外なほどの独自性を保持しつつ、ベートーヴェンの孤峰を目線をあげることなくほぼ水平に眺めている。
中間分の旋律は流麗ではあっても、そこに甘さがない。
表現する者が聴く者に媚びず自分の表現自体に奉仕できる。
作品に纏われている作曲者の装飾を削り取る必要のない生のままの説得力。
聞こえなくなった耳からの音の真価を自らの内心の音を聴きながら弦楽の擦過音を編み上げていったベートーヴェンがもしも永らえ、その後期にこの曲のスコアを見ることが叶っていたなら、自分を追っていた者が真に何者であるかを知っただろう。
Ich bin nicht einsam.
ただ、残念なことにシューベルトはこの後が書けなかった。
あるいはこれを書くことによって、自らの立ち位置を十分に確認し、納得してしまったのかも知れない。
ロザムンデや死と乙女の聴衆を意識した決して径が交差することのない緩やかな坂道である。
いずれにせよ。シューベルトはここまで来ていたのです。
演奏は初期のジュリアード弦楽四重奏団。録音状態はよくないけれど、粗雑物の一切ないテンションの高いアンサンブルがこの曲にふさわしい。
Schubert: String Quartets No 14 & 12
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: Eloquence Australia
- 発売日: 2007/11/27
- メディア: CD
強弱楽しみました。
音楽を教えてもらっている時少しでいいから
こうして曲がつくられた背景なども一緒に教えてもらいたかった。
詳しくない先生だったのかもしれませんが^^;
by nana_hyr (2012-04-06 12:12)