抒情と屈折と霊感と [音楽]
ショスタコーヴィチ/チェロ・ソナタニ短調 op.40
第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ
第2楽章 アレグロ
第3楽章 ラルゴ
第4楽章 アレグロ
国家的批判による社会主義リアリズムに宣誓したような音楽から抜け、実験的な作風もこなれ、リズムに完全な個性が浸透するまでのわずかな息継ぎがこのような作品を作らせたのか。
それにしても意外なほどの豊かな歌の中に、ただの思い付きではない実験が作品の要素となっているあたりはさすがのしたたかさ。
第1楽章の冒頭から始まる優しき旋律はショスタコーヴィチのささくれ立ったリズムからは程遠い。
聴くたびに複雑で深くなってくる暗さと重さを拭ってフレッシュな感覚でもう一度もう二度と聴くには骨が折れる。
20世紀のチェリストたちは、『これだ!』思うだろうね。
第2楽章の切れの良いリズム感とピアノの乗り、そしてギターで聴いたことがあるけれど、ヴァイオリンの眷属ではちょっと耳慣れないナチュラル・フラジオレット(もともとは管楽器の奏法らしい、詳しくは知らないが左の指先で強く弦を押さえ込まないで普通のヒステリックな高音よりももっと柔らかなで奇妙な音色を生む)のグリッサンド。
どこだって?
およそ聴きなれない音がしているから誰が聴いてもはっきりわかる。
ただ明確でインパクトのある音色を出すにはかなり大きな手と指先の均一な圧力が必要な奏法らしい。
それでも、初めて聴いたときは『なんだこりゃあ!?』と思った。学生のころだったけど。
第1楽章と第3楽章の旋律をつなぐすばらしい楔である。
ほの暗い第3楽章の気分。
ピアノの重い点描が悲しみをようやくほぐし、もう一度肺いっぱいのたまった空気を吐き出し、顔を上げようとした刹那の、そのうつろな肺腑を衝く。
チェロという楽器のうつむいたままの音色がため息のようなピアノに滲んで同化する。
終結部にいたるピアノが主導する悲歌は古臭くなく、過度に鋭くもなく、20世紀の感性で書かれた美しいため息。
当時、先鋭的に映った作品もジジイになった今聴き直すとこんなに歌っていい のかと思うほど旋律的である。第4楽章はまさしくショスタコ節。
皮肉とパロディに満ちた軽快さの中に「ウーソぴょん」とか言ってすべてをひっくり返すような唯我独尊あらためて聴きなおしても、20世紀のチェロ・ソナタとして記憶すべき傑作でしょうね。
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ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ;チェロ・ソナタOp.40 他 (Chostakovitch: Cello Sonatas)
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