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不安と祈り [音楽]

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サミュエル・バーバー/Agnus Dei op.11


弦楽四重奏曲からの弦楽のためのアダージョとして有名。

順番としては弦楽四重奏曲第1番op.11の第2楽章であったこの曲を自身が弦楽合奏のためのアダージョとして編曲した。

そしてベトナム戦争を経験し、戦争に対する自らのスタンスを音楽で示すものとして1967年に作り直されたのがこの無伴奏合唱曲「アニュス・デイ」。

1967年といえばベトナム戦争が泥沼化し、多くのアメリカの若者が命を散らしていた時期。

 後にこの曲自体はカンボジア内戦を背景に描かれた1984年制作の英国映画(The Killing Fields)の中で主人公がフィールド一面に白骨が敷き詰められた象徴的な死の原野の中を彷徨うシーンで使用され、その音楽はその映像とともに静謐と絶望と平和への渇望の交差した情景を浮き上がらせていた。

ニューヨーク・タイムズ記者としてカンボジア内戦を取材し、後にピューリッツァー賞を受賞したシドニー・シャンバーグの体験に基づく実話を映画『キリング・フィールド』は、1984年のアカデミー賞において、助演男優賞・編集賞・撮影賞の3部門受賞を受賞。

東京で司法浪人をしている時代、僕は親友のアパートに何か月か転がり込んでいたことがあり、その彼が留守の間、何気に午後までテレビを見ていて、その映画の予告編だか解説だかを観た。

その時、その音楽はそこに繰り広げられる真っ白い骨の原野をサクサクと踏み崩しながら、生きるためにひたすら進む主人公の狂気と生への渇望と死への慄きを慰撫するように歌われていて、僕はその静謐の調べに内耳を貫かれていた。

当時はまだパソコンが普及している時代ではなく、サミュエル・バーバーという散髪屋みたいなアメリカの作曲家のことなどほとんど知らなかった。

知らなかったからこそ、裸の耳で感じたものが今の今まで深々と脳裏に刻まれて残っている。

そしてその旋律をそのまま肉声に載せたのがこのアニュス・デイ。

このアニュス・デイは 神の子羊(イエス)を唱った祈祷文でレクイエムによく聴かれるが、バーバーは作品11の合唱曲として残した。

誤解を恐れず、平たく簡潔に言えば悲惨と空虚と無意味を目の当たりにしてたくまずして口にするときの『Oh! My God』の祈りである。







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