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無銘の美 [音楽]

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長いピアノの導入に続く浮遊感のあるヴァイオリンの羽のような軽さが風に舞うように閃く。
決してヒステリックなものではなく、音楽はコントロールされた広い空気感の中に踊っている。
全方位的な光と影のマダラ模様は、これはもう印象派特有の音彩を聴かせる。
かつてヴァイオリンとピアノのためのエレジーに聴けたロシアの仄暗いロマンティシズムは毛ほども顔を見せず、
洗練と繊細で覆われた皮膚が、実践的で好戦的な筋肉を隠しつくしている。
フランス系ロシア人ピアニストであり、作曲家であったこの不遇の天才の血の本筋は、ロシアの大地ではなく、奔放さが詩になる国の血から迸る。
凍り付く降雪の中に杭のように佇む鼓動が作る歌ではない。
寒くても月明かりで歩く石畳にこぼれる石造りの建物から洩れるセピア色の灯りの中に聴ける歌である。
ピアノに求められる高いテンションとヴァイオリンの緊張と弛緩の数瞬に産まれる揺れるようなビブラートが醸す枯れる寸前の
華の最後の香り。
ベル・エポックの香りである。
あと一歩踏み出せば、簡潔と数学的音形を観念的に知覚する時代に届く、その一歩手前で音楽は19世紀にきびすを返す。
作曲者は自分の立ち位置に揺るぎないプライドを持っている。
切り裂かれても無視されても皮一枚で堪えるだけの糧を作っている。

速度標記はそれと区別が付くけれど、楽章で区切られているわけではない。
『詩』が詠う対象に言葉の数を増減し、一行に込める意味の密度を変えるように、感性に置き換えられた文字を視覚的に捉える美しさを持ち合わせているように、彼の音楽は楽興の高まりに応じてその強さを変える。
これはある意味ワグナーが用いた手法に寄り添っているように感じるけれど、結果はずいぶんと離れたところに果実を落としている。
これは当時のロシアで受け容れられる音楽ではなかったのだろうね。
オイストラフが弾いたモノラルの掠れた音色からは、音楽の中に流れているはずの自分と同じ匂いを探しているように聞こえる。
でもボクは録音の新しさとかではなく、この若々しい男女の醸す素晴らしい音楽に出会ったときの、夢中と真剣を好ましく聴きます。
音楽も、演奏も素晴らしい。

ゲオルギー・カトゥアール/ヴァイオリン・ソナタ第2番op.20『詩曲』

アンダンテ~アレグロ~モデラート

Youtubeの音楽はオイストラフのものも紹介する演奏も2つの部分に区分されています。
ここではその前半を






カトワール:ヴァイオリンとピアノのための作品集 (Georgy Catoire・Works for Violin&Piano)

カトワール:ヴァイオリンとピアノのための作品集 (Georgy Catoire・Works for Violin&Piano)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: CPO
  • 発売日: 2010/02/10
  • メディア: CD





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