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The Story of 100 Dragons 2 [空想冒険小説]

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「むう………」小山のようなドラゴンの背が大きく延びをするように立ちあがる。


「懲りぬな」ドラゴンの吐く深い唸りが愁いを含んでブラムの耳に響く。


「一つ、二つ、………四つまだまだおる。多いぞブラム。」


「ナーダ達は『妖女』が滅んだ後も呪命を忘れぬ輩らしいな。」


呟きながらブラムはゆっくり立ち上がる。樽のように太く逞しい体躯が、太い筋肉の束を寄り合わせたような両足に支えられて立った。ブラムの身長は2メートルを超している。ゆったりとした動作で左の腰に下がった鞘からスルリと剣が引き抜かれる。長く、刃肉の厚い、重い大剣である。尋常のものが扱える剣の長さ、重さ、太さではない。月の光も死に絶えた闇(やみわだ)に剣自身が放つような青白い閃光がその剣先まで走った。

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The Story of 100 dragons [空想冒険小説]

         


岸辺にて


1



星のない夜に、黒い大地から立ち上るような赤いオーロラが走り、数瞬夜空をいくつかに仕切った後、唐突に雪崩込む周囲の(やみわだ)に浸食されるように淡く消えてゆく。この世の終わりを知らせるかのように、この星の自然という自然が最後の力を振り絞って地上の、地下の、中空の生き物たちに「逃げよ」と告げている。「どこへ?」闇のあちこちから無数の怨嗟が立ちのぼるような声ににならない無数の音がごう、ごうと風のように舞っている。黒い闇は遙か空の高みからひび割れるような黄色の稲妻を生み、その黄色は空の黒ににじんだようにオレンジから赤へ揺らめいて変わる。

空の闇が凝ったように一点に(わだかま)り、そこから突然赤いオーロラが一気に吹き出し、夜空一面に走り抜けてゆく。その時赤々とその光を写し込んだ湖面が闇と水平線を分ける。広大な陸地と海のような広さの湖が数瞬顕わになる。

その岸辺...ぽつんと明かりがともっている。逃げ遅れた誰かが暖をとっているのか明かりはゆらゆらと揺れている。焚き火のようだ。男が一人湖面を背にして座っている。ほろ ほろと揺らめいていたオレンジ色の炎が、投げ入れられた木片を巻き込んで、ぼッと大きくなる。パチパチと辺り一面に細かな火の粉がはぜ、闇の中に光の壁が出来たようにぼうっと明るくなる。数瞬、たき火に当たっている男の顔がはっきりと見て取れた。やがて男以外は全て夜の漆黒に溶け込む。ただ一人の人間が暖をとるには大きすぎる焚き火ではある。

炎の照り返しの中に浮かんだ男の風貌が顕わになる。短く刈り上げた頭髪は白く、眉も、生え乱れた無精ひげも一本残らず白い。しかし、その男がかなりの年を経た人間であると見て取れる特徴は他に何もなかった。太い眉、根本の張った高い鼻に、無類の意志の強さを感じさせる力強く結ばれた唇。がっしりとした分厚い顎、太い首、肩の筋肉の盛り上がり、厚い胸板がゆるく呼吸している。巨大な2足獣の鞣し革でできていると思われる、ゆったりとした上着をふわりと羽織っている。立ち上がれば(ひぐま)を思わせる巨体である。しかし、その在りように暴力的な雰囲気はなく、巨大な一枚岩のように静かであり、圧倒的な質量でまわりの闇を押しのけている。

男は腰掛けている平らな岩の端からもう一本木片を取り出し、目の前のたき火に投げ込んだ。ぼん、と火の粉が舞い上がり、パチパチと木片がはぜ、男の逞しい体躯を闇に浮かび上がらせた。





「ブラムよ。我が友よ。」

その男のはるか頭上から、低く、厚く、なめらかなビロードの上を滑るような慈愛と温みに満ちた声が降りた。

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