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台風の日のお誘い [One's Boyhood story]

 自分の子供時代のことを書き始めて思ったのだが、今考えると、とんでもない子供だったようだ。
ただ、悪ガキという名前の「悪」には現代の子供を含めた社会での意味合いとは大きく異なった愛すべき呼称であったと、ボクは思いたい。
ボク達の行動はその当時の近所のいい大人が小さな頃にとった行動と同じで、父も含めて彼らにとって昔懐かしい思い出でもあったようだ。
だからボク達が作ったと信じている新しい遊びも、そこら辺のおじさんや父がいつか見覚えのある遊びに似ていた。

小型の台風が僕の住む田舎を通過する当日。
強い風雨の中でボクは潮の干満を新聞で調べ、友達からの電話を待っていた。
やがて電話が鳴り、ボクは急いで身支度を整え、といってもどうせ濡れるからと海水パンツにレインコートを羽織った思い浮かべると今時の『変なおじさん』と同じような格好で、自転車に乗り友達の家へ行くといって家を出た。
その臨時休校の当日僕らは激しい波の打ち寄せる海岸に立っていた。
雨と風の強い砂浜で、松の木に根元にあいている大きな岩の穴で雨風をよけながら、泳ぎや力仕事が苦手な子達(いわゆる勉強ができるけど体力のないおボッちゃまが多かったね。)が重油で火を焚く。
そしてボク達は二人が一組になってトタン板に木枠を嵌め、二人で掲げるための取っ手を作った「戸板」と呼んでいた道具を頭上に掲げて、浜辺にシューッという音を残して引く波に合わせて、水際に駆け寄り、高い波が立ち上がり、その先端が大きく崩れる瞬間まで我慢して全力で堤防の際まで走った。
頭の上に掲げたトタン板にガラガラ、バラバラと音を発てて波が巻き上げた石が落ちてくる。
ボク達は歯を食いしばってそのショックに耐えながら、波の危険を避けている。
引き波の瞬間にボク達は脱兎の勢いで焚き火の所まで走り、頭上に掲げていたトタン板を下ろす。
ガラガラと海底の砂場にあった小振りの石が下につもる。
ボクらは軍手を嵌めた火の番の子供達が、石を一つずつ調べるのを見ていた。
その石には、普段深すぎてなかなか採りに行けない大きな巻き貝や真珠の筏から逃げたアコヤガイ(真珠貝です)や朝日貝と呼んでいたホタテの様だけど、
少し小型の二枚貝や子供の手のひらより大きいカラスガイ(ムール貝の仲間で凄く大きい)がたくさんくっついている。
小さな空き瓶には小さなタコが入っていたりした。
ボクらは歓声を上げて、石から貝をはがし取り、火の中に放り込んだ。
貝殻が焦げて、中の身もカラカラになる寸前まで焼けてしまうのだけれど、塩気が絶妙についていて凄く美味しかった。
時々焦げたアコヤガイの殻から丸い真珠の核が出てきたけれど、それはもうすっかり焦げて表面がはげ落ちてしまっていて真珠とは言えないものになっていた。
もちろんボク達には何の意味も値打ちもないものだった。
火の番をする男の子も、戸板を掲げる男の子達もみんなわいわい騒ぎながら雨と風の中で、遊んだ。
潮目が変わると危険になるので、年長者は自分が受け継いでいる目印まで波が引かない内に高い波ができる様になると、全員に号令をかけ、ボク達はあっさりその遊びを放棄した。
自転車で話を合わせるために友達を送ったり送られたりしたけれど、不思議と家に帰ったら、大人にはすっかりばれていて、凄く怒られたけど、
母親がいなくなると


父は「旨かったろ?」と小声でささやいたものだった。


ボクは自分の子育てに今も後悔の念を持っている。
ボクの妻は山の手で姉妹は女ばかりの優しい家庭に育った。
長男を山に連れて行くと岩に登ろうとする。木の枝にぶら下がる。
子供はそれをしたいという気持ちが行動に出るようになるときは、そのための手足の力は既に準備されているのだった。
ボクは自分の子供を見る時、すっかりそのことを忘れてしまっていたらしく、とんでもない高さに登ってゆく子供に「危険」というイメージを抱き、『止めて欲しい」という妻と同じ目線で見てしまった。
「危険」を犯している子供に対して、耐えながら見ていることをしなかった。
やがてその気持ちは子供にも伝染し、子供は自分の力を内側に閉じこめていつの間にか試すことをしなくなって育った。
素直に育ってくれたけれど、打たれ弱さが気に掛かる。
危険な遊びをする子供達に、真剣に、痛切に叱る妻の怒りが収まった後で、「おもしろかったろ?」といえなかったその一瞬が、ボクの子供のまだ開けていない扉の数を増やしてしまったような気が今もしている。





 


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こいし

こんにちは♪
「旨かったろ?」って、こっそりいえる強くて余裕のある大人っていいですね。
自分がそれに近づけるかは‥‥?
それにしても、遊びの中でも、年長者の子がきちんとわきまえて行動しているのが、感心しました。
by こいし (2007-10-25 23:04) 

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