ピアノ版ヴァイオリン協奏曲ニ長調
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲ニ長調OP.61(ピアノ協奏曲編曲版)
第1楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
第2楽章 ラルゲット
第3楽章 アレグロ(ロンド)
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は華麗なピアノ協奏曲が全盛であった当時、必ずしも現在のような名作としての地位を与えられてはいなかったようだ。
1806年にメンデルスゾーンの指揮でヨゼフ・ヨアヒムがヴァイオリンを受け持ち復活させるまでは不当といえるほど評価されなかった。
これは派手なピアノに比してヴァイオリンの独奏が地味であり、出版社も余り乗り気でなかったことも遠因とされている。
ベートーヴェンはムティオ・クレメンティ(ホロヴィッツのソナタ集が有名)の薦めもあって自分でこのヴァイオリン協奏曲をピアノ協奏曲に編曲した。
それはヴァイオリン協奏曲を献呈したシュテファン・フォン・ブロイニングの妻でピアニストであったユーリエ・ヴェリング(旧姓)に結婚祝いとして献呈されている。
ベートーヴェンはこの編曲でピアノパートに長大なカデンツァを書いたが、それ以外はヴァイオリンパートをピアノにそのまま置き換えるスタイルで、余りいじっていない。
オーケストラパートも同様である。
冒頭のティンパニの鳴る部分で『あれ?』と思う位で、あとはカンタービレの楽器であるヴァイオリンの線にピアノの点を近づけるために装飾を施したくらいだ。
だから、原曲の優美さは損なわれず、さすがと思わせる。
ただ、第1楽章のような息の長いフレージングでヴァイオリンが歌う部分は点描の楽器であるピアノではちょっと苦しい。
しかし、第2楽章のラルゲットはベートーヴェンの緩徐楽章の楽想の深さが楽器の種類に左右されない普遍的な魅力と精神性を持っていることを見事に証明してみせる。
非常に美しいラルゲットです。
ヴァイオリン協奏曲では第1楽章にカデンツァがない。
いらないのではなく、書かなかったのだろう。
第5ピアノ協奏曲にはカデンツァは不要であることを彼自身が言及しているけれど、それは奏者の即興性に任せたというより、ベートーヴェンがヴァイオリンという楽器の特性を知悉しているわけではなかったことを示しているように思う。
だから、奏者の即興性に頼ったと言い換える方が正しいのかも知れない。
皮肉なことに現在ではこのカデンツァに関してはこのピアノ編曲版のカデンツァを参考にするヴァイオリニストも少なくない。
カデンツァはベートーヴェン自身が作曲した紛れもないものではある。
現代の奏者は過去の即興を楽曲の一部として余り冒険をしない。作品に対するアプローチが自分自身を主張するよりも、作品に語らせようとする芸術的傾向が美質とされるからだろう。
正直ボクはこの作品をヴァイオリンで聴くよりもピアノ版で聴く機会の方が多い。
暑い時期にはヴァイオリンの高音はちとしんどい。
- アーティスト: ゼルキン(ピーター),ベートーヴェン,モーツァルト,小澤征爾,シュナイダー(アレクサンダー),ニュー・フィルハーモニア管弦楽団,イギリス室内管弦楽団
- 出版社/メーカー: BMG JAPAN
- 発売日: 2003/09/25
- メディア: CD
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲ニ長調(ヴァイオリン協奏曲の編曲版)/同第2番
- アーティスト: デュシャーブル(フランソワ・ルネ),ベートーヴェン,メニューイン(ユーディ),シンフォニア・バルソビア
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 1999/12/16
- メディア: CD
- アーティスト: ズーカーマン(ピンカス) バレンボイム(ダニエル),ベートーヴェン,バレンボイム(ダニエル),イギリス室内管弦楽団,ズーカーマン(ピンカス),ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2003/12/17
- メディア: CD
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