優しげなストーリィ [音楽]
ブラームス/4つのバラードop.10より第2番 ニ長調 アンダンテ
ブラームスが楽譜に残した日付から1854年頃に作曲されたとされる4つのバラードは短調と長調が一組になっていて第1番はニ短調この第2番がニ長調、第3番がロ短調、第4番がロ長調です。
若いブラームスがシューマンの後ろ盾でデビューして間もない頃、既に作品の中に持っている重さと薄く紗がかかったような音色の渋さが、バラードのもつ劇的要素を排した形で淡々とうたわれる。
特にこのニ長調は一聴ではシンプルな構成です。
右手の優しげなリードにわずかに添えられる左手の朧なリズム。
1音の残響がペダルと指先の力でコントロールされるところから生まれる音の物語。
展開部で強くなってくる左手の動きに同じ強さで右手が応えている。
声高に昂ぶるのでもなく、悲劇に大げさに身振りするのでもない。
焼けきれない夕焼けの空が朱に染まるよりも速く藍色の闇が下方から登ってくる。
少し首部を傾けたまま戸口に立って次第に途切れて行く陽の光を細めた瞼の間から見ている。
やがて夜が来る。
三部形式で曲調はどちらかというとロマンスっぽい。
優しげなストーリィ。
でも、複雑な器に入っている。
第1番『エドワード』(ヘルダーの詩の中に出てくる父を殺した息子とその母親の会話)のような物語性は薄く、バラードが持つイメージの方向性は希薄だ。
この曲を聴くには2つの方向があり、一つは明晰な叙情性を持つグールドの演奏。もう一つは
ミケランジェリの音と響きの間にある音色というものの存在を作品に語らせるタイプ。
ミケランジェリの凄さは音色にあると思うし、それはドビュッシーなんかにも遺憾なく発揮されているけれど、ブラームスの小品についても彼の凄さが表れている。
同じ鍵盤が手前に引っ掻かれるように打たれて止まる。
次ぎに同じ指先が同じ音を叩くときそれは黒鍵の根元近くまで前に引かれるように擦って行く。
ハンマーがあがって鋼線を叩く物理的な動きは変わらないと思えるのにこの音色の舐めるような変化は何だろう。
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派手な色に染まるのではなく、あくまでも抑えられた夕暮れの色彩の中で音楽が消えて行く。
もちろんグールドにある音楽が生きている感じは乏しい。
でも一行の中に詰まった言葉は一度では読み切れないほど夥しく、聴く度に始まりが異なる。
- アーティスト: ベネデッティ=ミケランジェリ(アルトゥーロ),ベートーヴェン,ブラームス,シューベルト
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2009/11/11
- メディア: CD
- アーティスト: ミケランジェリ(アルトゥーロ・ベネデッティ),ベートーヴェン,シューベルト,ブラームス
- 出版社/メーカー: BMG JAPAN
- 発売日: 2003/09/25
- メディア: CD(この演奏の音源です。)
なんと、ライヴなんですね!
思わず息を止めて聴いてしまいました。
凄いピアニストです・・・・
by glennmie (2010-02-24 14:15)
彼は録音嫌いで有名で、EMIには比較的多くの録音を残していますが、ほとんどライブです。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番は昔のモノラルのライブテープが残っていて、それが凄かったのですが、レコードがすり切れてしまって手許にはもうありませぬ。日本に来るというので学生時代アルバイトをしてチケットを手に入れ、寸前でキャンセルに合いました。何でもミラノから船便で運ばせたピアノが間に合わなかったようです。
チケットは未だに手許にあります。
ドイツやウィーンでも生前は当日券がバカ売れしたピアニストでした。予約してもキャンセルが多かったからですね。一度聴きたかったなあ。
by Mineosaurus (2010-02-24 16:59)