室内楽の宇宙-Shostakovich [雑考]
ショスタコーヴィチ/ピアノ五重奏曲ト短調op.57
長い間、ボクはこの曲をリヒテルのピアノ、ボロディン弦楽四重奏団のアンサンブルで聴いていた。
最近のピアニストに満足できないわけではない。小さなアンサンブルには全体の調和から親密な世界が生まれる。
対峙するのではなく、寄り添いながら歌うことも「音の楽しみ」だと思っている。
でも、最近の若いピアニストは名前が出ると契約に追い立てられるかのように自分のよって立つ世界にのめり込んでゆく。彼らにとってあまり良い時代ではないのかも知れない。
リヒテルは徹底的にピアニストであり、その存在は融通無碍であらゆる流れに合わせながらも、室内楽でも自分のピアノの居場所を知悉している。
そんなピアニストがロシア(旧ソヴィエト)連邦に多いのは何故なんだろう。
長い冬がひとかたまりの人々を室内での楽しみに縛り付けるからだろうか。
自己主張よりもより緊密な体温を保持することに専念する。
アシュケナージもその一人だ。
改めて彼がピアニストとして参加した同曲を聴いた。
ボクはLONDONというレコード製作会社のピアノ録音にはあまり良い印象を持っていないが、この録音はいい。
曲は20世紀を代表すべき名曲です。
ショスタコーヴィチ特有の語法が交響曲、器楽などと変わらずに用いられていて好き嫌いは別れるとは思いますが、シューマンやブラームスなどと並べても遜色ない完成度です。
第3楽章スケルツォを間に挟み第1楽章前奏曲と第2楽章フーガ、第4楽章間奏曲第5楽章フィナーレが対照的に配置されています。第1楽章は重々しくリズムは単調ですが起伏の振幅が大きい重厚なロマンティシズムがあります。
続く第2楽章はショスタコーヴィチ特有の静かで張りつめて澄み切った世界があります。
第3楽章は特有の皮肉っぽいリズムが、かれの作品のほとんどから聞こえるものと同じであり、これは社会主義に対する彼の取っている本心のスタンスが込められているような気がします。
これはマンネリズムなどでは断じてなく、シニカルな印象は彼があえて作り上げているメッセージであると素直に感じます。
第4楽章第5楽章は第1,第2楽章とは対照的に…うん。曲の解説をやるつもりはなかったのですが、やめておきます。
いい曲は聴けばわかるのです。
Shostakovich: String Quartet No. 3; Two Pieces for String Octet; Piano Quintet
- アーティスト: Dmitry Shostakovich, Sviatoslav Richter
- 出版社/メーカー: Melodiya
- メディア: CD
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