孤高の独白 [音楽]
シューベルト/ピアノソナタ第21番変ロ長調D960
初めて全曲を通して聴いたのは、学生時代のアパートでNHKのFMラジオでホロヴィッツのモノーラル盤が放送された時だった。
もう何十年も前のことになる。
諦念感の強い流れのない曲だなと第一楽章を聴いて感じていたけれど、第二楽章のアンダンテ・ソステヌートのリズムの思い詰まったような切なさに不覚にも涙がこぼれた。
それ以来、ホロヴィッツのこのときの演奏がシューベルト最後のソナタについてボクの基準になっている。
リヒテルのD960を聴いた時も、ボクはあの時の感動を越えられない自分にもどかしい気がした。
(つまり、あまりボクは日本でのリサイタル以来、ホロヴィッツが好きではないのです。
凄いと思うのですが、それが嗚咽するほどの感動を覚えたのは、その時のボク自身の心のありようにも関係したのだろうけれど、紛れもなくアレは感動でした。
それでも、日本での世紀のリサイタルと言われた”ひびの入った骨董品”に大枚をはたいた腹立たしさが今もボクに残っています。)
ずっと後になってボクは全く新しいシューベルトを聴いた。
それはアルフレート・ブレンデルの美しく磨かれた鏡のようなピアニズムであり、突き放すような音ではなく、真に粘りがありながら音の滑らかさが知性を押し隠して歌っている、彼のシューベルトだった。
ボクがこの曲に受けた孤独感と寂寥感を本来はこうだったのではないかと思えるような説得力で、美しい響きの中で示してくれた。
ボクはそれに満足している。
ブレンデルというピアニストはシューベルトを弾く時、本当に素晴らしい。
また、ボクは後期のシューベルトのソナタを録音したポリーニの演奏を聴いた。
1985年の8月25日ザルツブルク祝祭大劇場で行われたシューベルトの後期ソナタの演奏がとても良かったからだった。そこにはまたブレンデルとは違うシューベルトがいたけれど、D960に関してはやはり、ホロヴィッツに戻ってしまう自分がいる。
ブレンデルのシューベルトは美しく歌い、その美しさの中に孤独を醸し出す。
ポリーニのシューベルトはまるでベートーヴェンを聴いているようだった。両者の対比はあまり意味がない。
ボクはモーツアルトやベートーヴェンを聴く時以上に両者のシューベルトを聴くのが好きだ。
でも、ただ一曲このD960に関しては悔しいけれどついホロヴィッツに手が伸びる。
第1楽章 モルト・モデラート
第2楽章 アンダンテ・ソステヌート
第3楽章 スケルツォ:アレグロ・ヴィヴァーチェ・コン・デリカッツェ
第4楽章 アレグロ・マ・ノントロッポ
- アーティスト: ホロヴィッツ(ウラディミール),プロコフィエフ,シューベルト,ショパン,スクリャービン,リスト,ドビュッシー,ホロヴィッツ
- 出版社/メーカー: BMG JAPAN
- 発売日: 2001/12/19
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上のホロヴィッツのライヴを聴いてから以降、ボクがさまよったシューベルトD960の名演奏達です。シューベルト:ピアノソナタ第21番- アーティスト: ハスキル(クララ), ラヴェル, シューベルト, スカルラッティ
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- 発売日: 2007/01/24
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シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960/楽興の時 D.780- アーティスト: ケンプ(ヴィルヘルム), シューベルト
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- 発売日: 2001/06/29
- メディア: CD
シューベルト:ピアノ・ソナタ第6番・第21番@リヒテル(p)
アーティスト:- メディア: CD(おすすめ!)
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