虹の根元 [音楽]
フルワイパーでも前が見えないような大雨の後一気に晴れ上がった真夏の山に向かう国道。
ガードレールの直ぐ下に渓流が流れるそのカーブの向こうにあるお茶の工場の屋根の向こうに虹がかかっていた。
虹は孤の内側から紫、藍、青、緑、黄、橙、赤の七色だと言うけれどボクにはいつ見ても三色にしか見えない。
写真で見る虹はよく目を凝らしてみると、なるほど微妙に滲んだ色の境目に別の色があるようだ。
でも、動いている時の僕の目はそれほど多くもない色の区別がうまくできない。
後方に置いてきた緑の深い風景から、前方の山のすそ野に虹は落ちていた。
『どっちから出たか?後ろか?前か?』
そんなことは分からないけれど、『あそこに行けば虹の始まり(あるいは終わり)が見えるかも知れない』
そう思うとアクセルを踏む足に自然と力がこもった。
緩い下りの左カーブ。ガードレールのない山際の、空の青さがクッキリとした山の緑に落ちかかるその切れ目が僕の目にはっきり青と黄と橙と赤が混ざった色のヴェールがかかっているように変色した場所があった。
そこが虹の始まりだった。
凄く湿っぽく、霧のような水蒸気の中に入るようなイメージでボクはそこに立ってみたけれど、確かに虹の中に立ったはずなのに、虹は僅かに僕から離れたところに、3色のヴェールを隠してしまったようだった。
でも、ガードレールに反り返るほどその場所から離れて眺めると、虹はやはりそこにあった。
掴みきれない夢みたいに、何度かボクはそこでうろうろしたあげく諦めてまた車のエンジンをかけた。
振り返るともう虹は消えていて、直線近くなったアスファルトの山道の国道には、幾筋もの陽炎が立っていて、小さな蜃気楼があちこちに黒い水たまりを作っていた。
形も色も見えなかったけれど、
でも、ボクはあの時たしかに虹の根元に立っていた。
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