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室内楽の宇宙-ロマンティック! [音楽]

メンデルスソーン/ヴァイオリンソナタ第2番ヘ短調op.4


第1楽章アダージオ-アレグロモデラート
第2楽章ポコ・アダージオ
第3楽章アレグロ・アジタート



音楽のミューズはモーツアルトを早々と手許に戻した後、同じような才能を後の時代に送り込んだ。
フェリックス・メンデルスソーンの才能はそう評価されても間違いではないと信じている。
彼はロマン派の音楽家として誰よりも、音楽が降りてくる器であった。


ブラームスが推敲を重ね分厚い音の重なりから仄暗いロマンを引き出してくるのに比べ、シューマンがその楽曲の形式に苦慮するのに比べ、シューベルトが交響曲の構成に持ち込まざるをえなかった様々な妥協と屈折を魅せるのに比べ、彼はやすやすと超越してゆく。
彼のロマンティシズムには個人的な物狂おしさはなく、全てがさらりと一筆のように描かれる。
筆の走るところに形式があり、彼の心は表現する瞬間に音楽の造りを獲得しているように聞こえる。
傷のないリリシズム。汗の匂いがしない涼やかなロマン。
でも、それ故に破綻の一歩手前まで追いつめられた迫真が聞こえない。
苦悩の跡が聞こえない。
音楽を楽しむ心は自分の頭の中に響く歌を様々な楽器に寄せてインクに吸い込ませる。
音楽と楽譜の間に粗雑物がない。
それが、強烈な個性に欠けると、言えばそうなのかも知れない。
でも、彼の音楽にはいつだってどんな心の有り様の時だって変わらない鏡のようなロマンティシズムがある。
作品は聴くものの心を映し、重くもなり軽くもなる。
作られた瞬間に完結したモーツアルト。音楽家はそこに近づこうとする。
メンデルスゾーンは演奏者のありようによってまださらなる高みに行く。
3曲のヴァイオリンソナタの中で、ボクは1952年にメニューインが初演した第1番のヘ長調よりもこの第2番をよく聴く。
第1楽章の短いけれどヴァイオリンが呟くロマンティックな物語の(アダージオ)序奏。
メンデルスソーンの心に浮かんだ旋律が直裁的にボクの耳に同化する。
澄んだピアノがその後を追いかけ同じテーマが徐々に動きを加え、アレグロ・モデラートの動的な世界へ移る前の数瞬のピアノのバスから密やかに滲んでくるヴァイオリン。
幾重にも重なるのに重たくなくて純化された歌。
繰り返される主題のメロディアスなこと!
第2楽章ポコ・アダージオは、ピアノの粒だった丸い音が、モーツアルトと同じくらい必要。
滲まないで甘美に歌う絹のような感触のヴァイオリンが欲しい。
情緒は乾いても、濡れてもいない。
しっとりとした静かで優しく、深いやすらぎの中の微睡み。
切なさや淋しさではなく、それはメンデルスゾーンが選んだ音がもたらす色彩が極めて少ない虹。
中間部の重く変わる歌が微睡みから目覚めて変わらぬ風景の中に、そこにいるべき人がいなくなっていることに初めて気づく時のような、感情が微妙に動くような情動を感じる。
これほど静かでこれほどピアノが単音を慈しむように歌うヴァイオリンソナタをボクはあまり聴いたことがない。
この楽章は長いけれど緊張は強いない。月並みな言葉ですが、美しいです。
第3楽章は表題のように煽り立てられることはなく、目覚めた体に心と血が戻ってくるように滲んでいた風景に彩りが戻ってきます。
これが、17才の心象にある風景では断じてあり得ない。
彼の頭の中には間違いなくミューズがいたのです。

   
メンデルスゾーン/
ヴァイオリン・ソナタ集 ミンツ、オストロフスキー
 【1988年 室内楽賞】


 

 ボクの持っているCDは日本盤なのですが、ジャケットがどこにも掲載されてないので輸入盤を紹介します。HMVです。これは素晴らしい演奏ですよ。シュロモ・ミンツの絹糸のようなヴァイオリンの音色はこのメンデルスゾーンの繊細さに非常に合っています。


 



 


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