嘆きの歌 [音楽]
ベートーヴェン ピアノソナタ第31番イ長調op.110
長調と短調がめまぐるしく交差し、暗さのない歌。寸鉄のパッセージが閃きながら贅肉のない綺麗な音楽が愛を持って鳴る。
ロマンティックな歌ではない。あくまで古典でマッシヴな意志に貫かれた涙なき嘆きが白と黒の鍵盤から導き出される。
固く結んだ唇は震えているけれど、しっかりと前を向き、眼差しは見開かれている。嘆きは極限まで耐えられていて、そこに何ものも入り込めない。
何かを与える音楽ではなく、ただじっと響きの厳しさに耳を傾ける時、ようやくベートーヴェンの孤独が見える。
誰のためにこんな曲を書くのか。
どんなに変形してもその道に惑いがない透徹したフーガ。バッハ以来の大きな流れがここにある。
これはあなた自身のための音楽か。天に昇るために、身内に残る重さという重さを全て音符に込めたか。
第九交響曲のように救いがシラーの詩によって大乗化されるものではなく、あくまでピアノという孤独なオーケストラが歌うのはベートーヴェン自身の魂の昇華。
これは献呈されてもただ困惑するだけの作品。
小乗のための魂の架け橋。
第1楽章:モデラート・カンタービレ モルト エスプレッシオーネ
第2楽章:アレグロ・モルト
第3楽章:アダージオ・マ・ノントロッポ(嘆きの歌)~フーガ・アレグロ・ノントロッポ
- アーティスト: ゼルキン(ルドルフ), ベートーヴェン
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2008/01/23
- メディア: CD
ベートーヴェン:Pソナタ第30,31,32
- アーティスト: ケンプ(ヴィルヘルム),ベートーヴェン
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1998/03/05
- メディア: CD
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