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チャイコフスキーの憂鬱 [音楽]

チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第2番ト調長 op.44

チャイコフスキーにはピアノ協奏曲が3曲ある。
有名な第1番があるんだから何番か後があるのは誰だって判るんだけれど、第3番はシンフォニーとして構想され、タネーエフの補筆によって作品79として出版された。
この第2番は第1番でトラブルとなったルビンシュタインに献呈されている。
第1番の評価の過ちを認めた大ピアニストはこの第2番を多少のアドバイスを与えるとともに受け取ったが、残念ながら初演の前にこの世を去り、1882年の初演はタネーエフのピアノによって行われた。

第1楽章:アレグロ・ブリランテ
第2楽章:アンダンテ・ノン・トロッポ
第3楽章:アレグロ・コン・フォーコ

第1楽章は非常に重厚なトウッティ(総奏)の後にピアノが入ってくるが、そのオケが示すテーマは、メランコリックであり、どちらかというとあか抜けない。
ロシアの風土をそのまま切り取ったような土と風の匂いがする。
そこだけですね。「うわ、ロシアだ」と感じるのは。
後は、非常に洗練されてゆきます。
この楽章のピアノはもの凄い。
ラフマニノフの第3番もかくやと思わせるほどの超絶技巧が続く。
ちょっとなまじの演奏家ではミスなく実演で弾き上げるのは難しいのではと思ってしまう。
常に右手と左手がオクターヴで動いていて、しかも曲自体が非常に複雑な繋がりを持っており、覚えるだけでも大変だろうと呆然とした。
テイクを繰り返す録音であればまだしも、実演でミスなく完璧に弾ききることはあのラフマニノフの第3番と同レベルではなかろうか。
カデンツアの凄まじいこと。
この楽章だけで評価を改めるべきだと強く思う。
ただ、レコードが少ないというのはやはり、第1番に聴かれるようなスラブ的な魅力が最初の導入部分の他には乏しく、第1番を作曲した経験が進歩させた作曲技法が却って災いもしたのだろうか。
洗練されることが評価につながらない。
作曲家であれば停滞が進歩よりも重んじられる世界に生きることは憂鬱でしょうね。
第1番の反省からルビンシュタインに迎合した部分もあるのかもしれない。
第2楽章はまるでチェロとヴァイオリンの二重協奏曲のようで素晴らしく抒情的でとびっきり美しいのですが、ピアノが第1楽章の反動で休んでいるのじゃないかと勘ぐりたくなるほど、オブリガードに徹している。ただ、チェロ好きのボクにはこたえられませぬ。
悲愴交響曲のような気分の沈潜から美しい旋律が流れます。
ハッとするほど美しいですぞ。
ここから聴き始めるととてもピアノ協奏曲とは思えません。
第3楽章は幾分第1番に似た雰囲気がある。
たたみかける強さに第1番のような強引さがなく、リズムが旋律の抑制の中で刻まれていて、エネルギーにかけるのかなと思うけれど、ピアノは見事です。
ボクが聴いているのはオープンリールからのテープをCDにダビングしたものです。
かなり前の演奏ですが、実演でこれを見事にやっつけたのはイギリスのピアニストジョン・リル(チャイコフスキーコンクールの優勝者)です。
指揮はワルター・ウェラー。ロイヤルフィルです。
イギリス名物プロムス(プロムナードコンサート)の一環として演奏されたものです。
プロムスはロイヤル・アルバートホールを約1ヶ月借り切って平土間の椅子を全て取り払い、そこに立ち見の客を詰め込んで、一ヶ月に亘り、延々とコンサートを続けるクラシックのお祭りですが、めちゃくちゃな客層が混然としていてロックコンサートのようなのりがあります。
クリフォード・カーゾンや、ジョン・オグドン(チャイコフスキーコンクールでアシュケナージと1位を分けた)のようにあまりレコードを残さず、実演で素晴らしく名の通った演奏をするピアニストの1人でしょうね。イギリスの名ピアニストは不思議とあまり外に出たがりませんね。
てなわけで、レコードは極端に少ないけれど、この原作版で演奏すると45分になろうかという大作を見事に弾ききってしかも洗練を感じさせるとなると残念ながらほとんどないですね。
このコンサートホールの残響音はいつもながら最低です(笑い)。
うーん、CD。いくつかそれでも探しました。

チャイコフスキー:協奏曲集

チャイコフスキー:協奏曲集

  • アーティスト: ポストニコワ(ビクトリア),チャイコフスキー,ロジェストベンスキー(ゲンナジー),デュトワ(シャルル),ウィーン交響楽団,モントリオール交響楽団,チョン・キョンファ
  • 出版社/メーカー: ポリドール
  • 発売日: 1996/09/26
  • メディア: CD

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第2番&第3番

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第2番&第3番

  • アーティスト: ヤブロンスキー(ペーテル),フィルハーモニア管弦楽団,チャイコフスキー,デュトワ(シャルル)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2006/02/22
  • メディア: CD

チャイコフスキー : ピアノ協奏曲全集

チャイコフスキー : ピアノ協奏曲全集

  • アーティスト: ハース(ウェルナー),チャイコフスキー,インバル(エリアフ),モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団
  • 出版社/メーカー: マーキュリー・ミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 1993/11/26
  • メディア: CD

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲全集

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲全集

  • アーティスト: レオンスカヤ(エリザベート),チャイコフスキー,マズア(クルト),ニューヨーク・フィルハーモニック
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2002/08/21
  • メディア: CD

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲全集

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲全集

  • アーティスト: ギレリス(エミール),チャイコフスキー,マゼール(ロリン),ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1997/11/19
  • メディア: CD

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