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猫の額に石灯籠 [音楽]

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第4番ト短調OP.40
第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ(ア・ラ・ヴレーヴェ)
第2楽章:ラルゴ
第3楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ

猫の額はこの曲のオーケストレーションというか、楽曲のインスピレーションである。
石灯籠はさしずめラフマニノフのピアノ演奏技法というところか。
実に悪魔的なオーケストレーションとピアノパートを支配する超絶技巧との大いなる合致から生まれたピアノ協奏曲第3番の広く立派な庭園に堂々と立つ巨大な石灯籠に比して、この協奏曲第4番のそれはいかにもバランス的に厳しい。
旋律が断片化し、そこに乗せるピアノ技巧の超絶が物言い足りていない。

第2番の協奏曲、第3番の協奏曲はオーケストラとの融合と対峙という違いこそあれ、オーケストラがよどみなく流れる様な抒情の大河を作り、そこを超絶的な技巧を駆使しつつピアノが歌い上げる旋律はまるで2本の手だけで事足りている様には思えないほどだった。
でも、それは技巧として突出することなく、発揮すべき時を得たクライマックスをスムーズに築いてゆく奇跡的な作品である。
また、第1番のこれからを彷彿とさせる作品自体の可塑性も感じられない。
この第4番は残念ながらそこまでの成熟がないし、若々しさもない。
あるいは第2番と第3番で彼の中で言いたり得てしまったあと、無理矢理にピアノの舞台を急ごしらえしたように感じてならない。
その辺を楽譜的にどうかとかは考えていない。
ボクは素人なので自分の感性をアンテナにしているんだけど、その超絶技巧でさらりと弾くにはあまりにもテーマが痩せていて、ピアノはやむを得ず強引に名人芸の世界を造ろうとしているようだ。
かなりの字余り感がある。
第1楽章の終盤、確かに素晴らしく美しい数瞬がある。塗り残したキャンバスの昔の下絵のように、それは唐突に聞えてくる。
第2楽章の僅かに残ったスラブ風のノスタルジックなメロディはユニゾンで追ってゆくと呆気なく行き着いてしまい、ピアノは突然クライマックスを強引に造り出そうと和音塊を叩きつけ、嵐のように叫ぶ。
ノスタルジックになりきれない。
かといって洗練に流れた風でもない。
流れのない中でピアノがもがいている。
例えば後のバルトークのように断片化した旋律が秩序だっていて、打楽器のように活躍するピアノの凄絶な音塊との相似性をもっているわけではない。
あくまでもピアノは19世紀にとどまり、ヴィルトゥオージティを楽曲の魅力の中心に据えたかったのだと思う。
ピアノは見得を切り続け、音楽の流れを堰き止めるほどに膨張してゆく。
凄い…と思わず感じてしまう瞬間がいくつもあるけれど、それが作品に対してではなく、演奏者の指先から紡ぎ出される超絶に圧倒されるのである。
凄いピアノだと思う。
でも、何も残らない。
ピアノが凄いのは第3番で十分わかっている。
それが美しいラフマニノフの旋律にどう絡んでゆくのか、そこが聴きたい。
でも、その旋律が残念ながら充分な魅力を放っていないように感じる。
彼の、ラフマニノフの持つ本来の抒情性が内面のフィルターを通ってにじみ出てくる前に、彼はこの曲を作らねばならない焦燥に焙られる何かがあったのだろう。
そう、思いたい。
猫の額ほどの庭には、でかい石灯籠が立っているだけで、周りにはともに眺めるべき風景がない。
ボクらが一歩引いて眺めるスペースが見つからない。

かつて、吉田秀和氏が始めた来日したミケランジェリにこの第4番だけを録音していることについて尋ねたことがある。
この時彼は「第2番も第3番も作曲者自身の弾いた素晴らしいレコードがある。今さら、私たちが入れるまでもない。しかし、第4番は、どういうわけかラフマニノフ(ミケランジェリがもっとも尊敬しているピアニスト)としては、理想的な演奏と呼ぶには躊躇されるものしか残していなかった。だから、自分が弾いてみるのも意味がなくはないと思った。」という返答をしている。
そのミケランジェリの演奏はやはり演奏としてはこの上なく見事なのですが、ボクには正直まだ、この第4番の真価が分かってないのかしらん。
ラヴェル:ピアノ協奏曲&ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番

ラヴェル:ピアノ協奏曲&ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番

  • アーティスト: ミケランジェリ(アルトゥーロ・ベネデッティ),ラヴェル,グラチス(エットーレ),フィルハーモニア管弦楽団
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2002/03/06
  • メディア: CD

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1第4番

  • アーティスト: ラフマニノフ(セルゲイ),ラフマニノフ,オーマンディ(ユージン),ストコフスキー(レオポルド),フィラデルフィア管弦楽団
  • 出版社/メーカー: BMGビクター
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  • メディア: CD

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