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室内楽の宇宙-我が生涯より [音楽]

ベドルジハ・スメタナ。
当時の芸術家に非常に多かった梅毒症により、晩年の音楽的方向は聴覚障害により、音に対する絶え間ない経験値と記憶の綾の中から紡ぎ出した音楽は、ベートーヴェンと同じく非常に個人的な精神性の中に入っていった。
第1楽章の主旋律は高く太いヴィオラの独特の擦過音から生まれ、病んでいた耳に、というより、直接彼の頭の中に響いていた音塊が象徴されている。

幻聴は鼓膜を震わせて聞こえている音ではなく、病んだ精神が奏でている象徴的な旋律だ。
それは一般的には『ゴーゴー』という風の音だったり、『シャーシャー』という電気が走るような音だったりするらしい。
卓越した音楽的素養はそれを旋律に転化する。ベートーヴェンにもあったと思われる。
民族的な旋律がそこここに鏤められ、チェコの風土が感じられる交響詩『我が祖国』に共通するイデオムが聴かれるけれど、それはもっと親密で個人的な内省によって暗く色づけされ、独特の美しい陰影を彫り込んでいる。
特に第3楽章は白眉です。
暗さの中に歩んできた人生の苦難が重く足跡となって沈み込んでいる道を今立っている場所から振り返るようなラルゴ・ソステヌート。
その重層的な総奏の深さと静かなパトスはこの音楽家の心と音楽の領域がベートーヴェン的な精神性の中に踏み込んでいるのを気づかせてくれる。
何によって解決しようとするのでもなく、ただ、そこに通り過ぎてきた様々ななまなましい苦節が音符によって昇華されている。
感動的な楽章です。
明るい解決に向かうテーマではなく、そこに想像ではない事実が音になって在り、それが音楽としてものの見事に高みに引き上げられているのです。
第1楽章と非常に共通点が多い終楽章も、ドヴォルザークとの類似性を感じさせながら、やはり、これは外から拾った音ではなく、スメタナ自身の緩やかに病んで行く精神の中から生み出された動かしがたい内なる声のようです。

1879年3月に行われたこの曲の初演ではくだんの重要な旋律に関わるヴィオラのパートをアントニン・ドヴォルザークが受け持っていたとのことです。

第1楽章 アレグロ・ヴィーヴォ・アパッショナート
第2楽章 アレグロ・モデラート
第3楽章 ラルゴ・ソステヌート
第4楽章 ヴィヴァーチェ

スメタナ:弦楽四重奏曲全集

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  • アーティスト: スメタナ四重奏団,スメタナ
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2002/06/21
  • メディア: CD

スメタナ:弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」、第2番 [Import]

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  • 発売日: 2001/12/26
  • メディア: CD

スメタナ:弦楽四重奏曲第1番

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  • アーティスト: タカーチ弦楽四重奏団,スメタナ,ボロディン
  • 出版社/メーカー: ポリドール
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  • メディア: CD

 

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