室内楽の宇宙-地味?いやいや、なかなか。 [音楽]
メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第2番ハ短調OP.66
第1楽章 アレグロ・エネルジーコ・エ・コン・フォーコ
第2楽章 アンダン・テエスプレッシーヴォ
第3楽章 スケルツォ:アレグロ・クワジ・プレスト
第4楽章 フィナーレ:アレグロ・アパッショナート
第1楽章は第1番のあの深々としたチェロの響きから始まる深い気品から一転してデモーニッシュなピアノに引きずられるような暗い雰囲気に包まれる。
旋律は背後に隠れ、体位的な構造が立ち現れる。
ハ短調の劇性はピアノの通奏にいつにないアンジュレーションを求め、バランスが崩れそうな危うさがある。
しかし、その中にはやはり歌が在り、チェロの幅の広い語りが悲劇を横切る風になる。
これはメンデルスゾーンがちょっと本気になった作品だね。
こういうのを聴いていると、やはり、メンデルスゾーンの天才と比較できるのはモーツアルトのそれしかないという気になってしまう。
時代が違えば聴衆が違う。
現代音楽のように眼前の聴衆を棄てきった世界ではなかった時代にあっても、この作品の第1楽章はちと激しかったのではなかろうか。
それ故第2楽章の暗い慰安が甘く心にしみる。
メンデルスゾーンの無言歌は夥しい旋律の宝庫であり、彼はその番人であり、主人である。苦悩の影すらみせず、そこには豊かな歌が流れる。
主題がピアノから弦楽に継がれ、総奏にはいるともう、心の嵐が遙かに去ってしまった湖面のように澄んだ水面を優しく風が渡って行く。
何故、何度も言うのだけれど、これほどの曲がその時代の凡百の作家の作品と同じく等閑視されなければならないのか。さっぱりわからん。
ボクの耳はおかしいのかしらん。
作為のない本当に魂から出た歌です。
そして疾走する得意のスケルツォ。
ベートーヴェン以来こういうことを軽々とできるのはメンデルスソーンしかいない。
ピアノの閃くようなパッセージの先に待つヴァイオリンの強奏と静謐。弾く方は大変。
屈められた膝が靱く伸びきるときの爆発力を秘めてフィナーレは外に向かって広がろうとする歌を抑え込み、吹き上がろうとする炎を抱いてなお、膨れあがって行く情熱を感じる。
唐突な劇性はわずかなほころびから鋭く吹き出しそうな緊張を孕みながら一気に結実する。
汗一つかかずに書き下ろされた感のある天才の作品は演奏者に大いに汗をかかせて終わる。
- アーティスト: クニャーゼフ(アレクサンドル),メンデルスゾーン,メニューイン,ベレゾフスキー(ボリス),マフチン(ドミトリー)
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2008/01/23
- メディア: CD
コメント 0