萌芽 [音楽]
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第2番変ロ長調OP.19
第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ
第2楽章:アダージオ
第3楽章:ロンド・モルト・アレグロ
1784年のベートーヴェン14歳の秀作であった変ホ長調のピアノ協奏曲から11年が経過している。
まだ、モーツアルトやむしろハイドンがこの作品の大きなモチーフの部分を占めているようでありながら、ソナタ形式の第1楽章の最初の和音には清新の意気が感じられる。
モーツアルトのような変わり身をみせながらも、純粋に古典的なロマンに寄りかからない構成の中に、ピアノの最初の1音を期待させる。
そこから引き出されるパッセージとオーケストラへの受け渡しからたたみ掛けるようなピアノの走り方はハイドンやモーツアルトではなく、紛れもなく、ベートーヴェンである。
ボクはベートーヴェンの書いたピアノ協奏曲(習作を除いて)の中では第4番が最も好きで、その次が第1番、第2番は3番目かな。
でも、まだ参考にしたハイドンやモーツアルトの影がちらついいているこの作品は、5番や3番のような『ベートーヴェンですよ』という、何というか、押し出しが弱いだけ、ささやかで聴きやすい。
室内楽風の管弦楽の編成から弾き振りでも良く演奏されるけれど、それだけ軽量であることは確かですね。
第1番の作品番号は15番だけれど、出版の都合でたまたまそうなっただけらしくて、第1番はこれはもう完全にベートーヴェンの作品的スケールを持っているのですが、本来ならば第1番になるはずだったこの曲は様々な要素に手が加えられていて、今できたばかりというようなモーツアルトの作品のような羽が生えていない。
物の本によると、初演の時はまだピアノパートが未完成でぶっつけ本番のモーツアルト的演奏で乗り切ったとのことらしいです。
それが聴いてみたかったですねえ。
第2楽章のアダージオは紛れもないベートーヴェンの懐の深い楽想が第1番の協奏曲のような世界を楽しませてくれます。
ただ、ピアノパートのロマンティックな音形はモーツアルトの最も優れた美質を取り入れていて抜け目がないです。
ピアノフォルテのめざましい性能の進化は同時期のモーツアルトの第20番(1785年)や第23番(1786年)の傑作協奏曲とほぼ同じ性能であり表現技法的にも甘さが見られない。
99%の発汗が100%の天才と肩を並べている。
ベートーヴェンが書いた協奏曲の緩徐楽章では第4番と並んで好きな曲想です。
第3楽章のロンドはいかにも楽しいベートーヴェンの解決的明朗さに満ちていて好ましい。
ほとんどモーツアルトですけど、時にオクターブを広く使ったパッセージと弦楽の総奏に聴く力強さはモーツアルトのようなマジックはないけれど、堅実で一度心の中で鳴った音をひとしきり腹の中で落ち着けた定番の美しさがあります。
こういう曲ならばベートーヴェンは5曲で終わらなかったのではないかと思わせますが、ここから行っちゃうんですねあの第5協奏曲のブリリアントな世界に。
必ずいい演奏とは限らないけれど、ツボにはまったらもう誰にもまねのできないアルゲリッチの演奏で聴きました。
彼女には本当に幾つもの第2番のレコーディングキャリアがあります。彼女自身の弾き振りの録音の後、2000年のアバドとの共演の前に故シノーポリと入れた演奏が好きです。
- アーティスト: アルゲリッチ(マルタ),ベートーヴェン,シノーポリ(ジュゼッペ),フィルハーモニア管弦楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2008/01/23
- メディア: CD
- アーティスト: アルゲリッチ(マルタ),ベートーヴェン,アバド(クラウディオ),マーラー・チェンバー・オーケストラ
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2004/09/22
- メディア: CD(3番を弾いているアルゲリッチはおそらくこれが初めてではないかと思うのだけど、彼女の3番の完成形はバックハウスであると言う持論は変わったのではないらしいのですが、自分でも弾いてみるモチベーションが生まれたんですね。音はとびきり綺麗です。)
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