第9の片鱗? [音楽]
ベートーヴェン/ピアノ・合唱・管弦楽のための合唱幻想曲ハ短調OP.80
第1楽章 アダージオ
第2楽章 アレグロ
第3楽章 メノ・アレグロ
第4楽章 アダージオ・マ・ノン・トロッポ
第5楽章 マルチア・アッサイ ヴィヴァーチェ
第6楽章 アレグレット・マ・ノン・トロッポ
第7楽章 プレスト
ベートーヴェンが38歳の年の瀬に完成され、第5交響曲や第6交響曲の初演と同じ演奏会で初演された。
しかし、ベートーヴェンがピアノのパートを忘れたり、管弦楽の出が間違ったりしてこの曲の初演は余り芳しいものではなかった。
合唱が入ったピアノ協奏曲にはブゾーニの怪作があり、スクリャービンの交響曲第5番『火の鳥』も同様の構成を取るが、似て非なるものでしょう。
到達点と過程の違いがありそうです。
この作品でのベートーヴェンは第9交響曲の漠然としたアイデアを抱いていてその可能性を楽譜に作品として書き留めたという趣がある。
ピアノが主導する主題には明らかに第9交響曲の歓喜の歌を支える楽想が芽生えており、敢えて彼がその習作とも言えるこの作品を番号付きで残していることが興味深い。冒頭第1楽章のピアノは暗く、劇性を秘めていて幻想曲風に始まり、私大の移管弦楽が加わり、最終楽章に合唱が入るとピアノは遙かに後退し、そこには第9交響曲と同じ音空間ができあがる。
そこに引っ張ってゆくピアノには力があり、ベートーヴェンのソナタに通じる古典的な太さがあり、管弦楽を従えるとそこには軽々と身を翻すピアノ協奏曲のカデンツァが聴かせどころを抑えてゆく。
コントラバスに重なってゆくピアノの歌唱風のパート。
それはチェロの受け継がれ、やがて最終楽章のソプラノの合唱、アルトの合唱へと引き継がれる。
しかし、それはあの爆発的な第9の歓喜に届く前にピアノとの協奏の中で、魂の救われる歓喜へと控えめに上昇してゆく。
第九の大乗的救済への力業ではなく、あくまで客観的に聴衆の反応を試すような目が感じられる。
『もっと書こうと思えば書けるんだよ』とでも言いたげなゆとりと力の抜け具合がちょっとベートーヴェンらしくなくて、こちらも気楽に聴ける。
ピアノパートは地味だけれど本当に美しい。
- アーティスト: ジンマン(デイヴィッド),チューリヒ・トーンハレ管弦楽団 ブロンフマン(イェフィム),スイス室内合唱団,ベートーヴェン,ジンマン(デイヴィッド),ネーフ(フリッツ),ブロフマン(イェフィム),チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
- 出版社/メーカー: BMG JAPAN
- 発売日: 2006/06/07
- メディア: CD
- アーティスト: ブレンデル(アルフレッド),シュトゥットガルト・レーラーゲザンクフェライン,ベートーヴェン,ベッチャー(ヴィルフリート),ヴァルベルク(ハインツ),メータ(ズービン),シュトゥットガルト・フィルハーモニック・オーケストラ,ウィーン・フォルクスオーパー・オーケストラ,ウィーン・シンフォニー・オーケストラ
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2000/09/21
- メディア: CD
コメント 0