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ミャスコフスキーの室内楽2-職人芸っていけないのか? [音楽]

ミャスフスキー/弦楽四重奏曲第7番へ長調OP.55(1941)

第1楽章 アンダンティーノ
第2楽章 ヴィヴァーチェ・エ・ファンタスティコ(生き生きと幻想的に)
第3楽章 アンダンテ・コン モート(歩くような速さで、動きを持って)
第4楽章 ヴィヴァーチッシモ(極度に速く)

[音楽]  1941年に作られた作品が堂々と調性を堅持し、このことが晩年のミャスコフスキーの懐古的作風への傾斜の表れとされている。
彼が書いたこの第7番あたりの曲趣は既にドヴォルザークあたりで終わっているはずのものかも知れない。
耳障りな音が1音もなく、約束されたようにノスタルジックであり、ロマンティックである。
そしてまた激昂する事もなく、音楽は情緒の高まりに大きく揺れ動くこともない。激情と静謐の落差はここにはない。
機嫌の悪い猫の背中を撫でるように、感性に添って何度もなだらかに慰撫して行く。
第1楽章のアンダンティーノのボヘミア調の主題の親しさは、彼のチェロソナタ第2番のそれのように、聞き終わるとハミングできるような優しさと懐かしいメロディである。
そういう歌を、ミャスコフスキーは、曲趣に応じていつでも引き出しから取り出せる、そういう旋律は簡単に頭に浮かぶという人物だったのだと言える。
ソヴィエト時代の軍人として体制の先端にいた時代、大戦を経て体制の防人として生きた経歴は、その作風をプロコフィエフやショスタコーヴィチのように己や家族を犠牲にして音楽的良心に殉じようとした行き方とは別の道を選んだ。
立場を異にしたものを現在から遡って批判することは容易い。
そういう風潮が固定観念のように芸術を縛っている。
ミヤスコフスキーは体制の中で生き、暮らしを立て、家族を守るためにひたすら聴衆に向かってノスタルジーとセンチメンタリズムを歌い上げた。
その作風は朗々と山野に響くものではなく、燦然と輝く陽の光を浴びながら人間の賛歌を歌うものでもない。
地面すれすれを、まるで夢判断の中の飛行のように高々と飛翔することはない。
その暗さには物狂おしいまでの芸術的苦悩と精神の深化はなく、ただ、最大協約数の歌を目的に応じて作り上げたという思いがある。
でも、音楽はいつからそういう方向を選ぶことを後ろめたいと思うべきだという風になったのだろうか。
現代で調性音楽を描くことは失笑さるべき事なのか。
先鋭的で、革新的と言われ、集中力と博識と専門性を持たなければ理解しえない音楽、大衆から背を向けひたすら芸術を大衆から引き離して行く音楽。
感性のみで判断できない音楽。
素晴らしいとは言えるけれど、好きか嫌いか言えない音楽。
その『音』は『楽』しくない。
今、何の先入観もなく、初めてミャスコフスキーを聴いた若者が、その美しく仄暗いロマンティシズムを湛える作品を耳にし、その心に響いていることが『懐古的』なのだろうか。
彼の作品を職人芸であるという表現をする評論家は多い。
作るべきものを形として覚え込み、それをただ巧みに再現して行く事をさしているのだろう。
大きなお世話だ。

(第1楽章一部分)

第1楽章はそれぞれの楽器のパートの重なりと独奏の音の織り上げ方が、美しい旋律の中で非常にわかりやすく、四つの弦楽器の叙情が折り重なって行く過程が示されている。優しい歌はそれぞれの楽器の中で受け渡され、決して声高にならず、微笑んで閉じる。
第2楽章では幻想的に循環するが、ヴィヴァーチェといわれるほど生き生きと出来るような曲趣ではない。生き生きとしているように装う自分を醒めた目で見つめているものがいる。
旋律線が感情を封殺し、規則正しい快活さを聴かせる。
第3楽章では第1楽章にもまして静かな歌を聴く。
それは決して深々と傷口に達するような個人的な苦悩の表明などではなく、耳に快い浅さでさまよっている。
フィナーレも同様。湯水のように溢れる楽想のどれを使って曲を纏めるか。ミャスコフスキーは全て知っている。

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コメント 3

SilverMac

沢山の交響曲も作曲したのですね。
by SilverMac (2009-11-10 21:59) 

アヨアン・イゴカー

何と懐かしく、美しい曲でしょう。
下手な理論よりも、感情に忠実な曲が優れています。
by アヨアン・イゴカー (2009-11-11 00:31) 

Mineosaurus

SilverMac さん<
お帰りなさい。ご旅行はいかがでしたか?ミャスコフスキーの交響曲はまだ2つほどしか聴いていませんが、ホントに何でもできそうな人ですね。それだけにそつがなさ過ぎて、ボクには室内楽や協奏曲くらいがしっくり来るようです。チェロ協奏曲は好きですね。暗いですけど。
アヨアン・イゴカー さん<
体制音楽家とか職人とかいろいろな言われ方をしますが、音楽は現代の無調性音楽のように実験的なものに意味があるのではないですよね。美しいですよ。この曲は。
by Mineosaurus (2009-11-11 07:52) 

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