沈む夢 [音楽]
ドヴォルザーク/弦楽のため夜想曲ロ長調op.40 B47
弦楽四重奏曲第4番ホ短調B.19の第2楽章アンダンテを作曲者自身の手によって弦楽合奏用に編曲したもの。
全く釣り合わない新世界交響曲なんかの隙間を埋めるためにレコードに入れられたりする。
この音楽としての光は朧気で、新世界の輝かしいフィナーレのあとにはいささかくすんで良いところがない。
ドヴォルザークにイメージされるメロディではない。
でも、ドヴォルザークは忘れることができなかったのだろう。
この音楽を作ろうと思った熱とそこを目指した内省の深みが自分の中にもちらと垣間見えたのを。
弦楽四重奏曲では第8番辺りからドヴォルザークの個性がにも明らかになるが、この第4番の作品はベートーヴェンやそのほかの音楽家の影をなぞった習作であるとされる。
でも、この音楽は『夜想曲』のもつ憩いのイメージを超えた、歌う楽器達の自由な抒情を美しく引き出している。
この曲のベートーヴェン的な静謐には、そこにスラブ的なノスタルジーを聴くことはできないけれど、一端道に踏み込んだドヴォルザークが性急に目指した高みを仰いで、もう一度辿るように今度は多くの旋律を引き連れて道筋に里程標を打ち込んでゆく。
十分美しく、十分に個性的である。
弦楽の厚みがましただけではなく、年齢によって、慎重になった少し猫背の青年のつぶらで澄んだ目の中に憂いの色が滲む。
純粋で静謐。
以後、決して辿る事のなかった坂道の向こうに沈む夢。
習作として埋もれてゆくには忍びなかった音楽は作曲者の手で取り上げられ、新しい棚にそっと置かれている。
Dvorák: Symphony No. 7; The Water Goblin; Nocturne for strings
- アーティスト: Antonin Dvorak,Jiri Belohavek,Jirí Belohlávek,Czech Philharmonic Orchestra
- 出版社/メーカー: Chandos
- 発売日: 1995/10/17
- メディア: CD
ドヴォルザーク:チェコ組曲 夜想曲ロ長調
- アーティスト: ドラティ(アンタル),ドヴォルザーク,ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団,デトロイト交響楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2007/07/25
- メディア: CD
コメントの前に
先ほど、ご訪問頂き、nice!とコメントまで有難うございました。
すみません。大事なコメント行を使わせて頂きました。
コメントに入ります。
この曲を聴いて、ベートーヴェンの交響曲第9番の第3楽章を思わせるような静寂で甘美な旋律ですね。仰っておられる
>ベートーヴェンやそのほかの音楽家の影をなぞった習作
の意味が、わかったような気がします。
有難うございます。
by matcha (2010-03-01 20:49)