虚をつかれた思い [音楽]
グラナドス/ピアノ五重奏曲ト短調 H.112(1898年)
第1楽章 アレグロ
第2楽章 アレグレット クワジ アンダンティーノ
第3楽章 ラルゴ:モルト プレスト
決してマイナーな作品であるとは思えないけれど、普段聴かない。
グラナドスが得意とした分野であるピアノ独奏曲も正直ボクは、その随一の紹介者とされるアリシア・デ・ラローチャ女史の福徳円満なピアノがあまり好みではないのと曲を聴いていて湧いてくるイメージがあまりにも具象的すぎて自分のはいる余地が無くて、敬して遠ざけている。
YouTubeでこの演奏を見つける前にどこかでボクはこれを聴いていた。確かショパンのピアノ三重奏曲とのカップリングで発売されていた。CDではなく、レコード時代である。
いつもながら当時音楽の何を聴いていたのかと思うことがあるけれど、読書がそうであるように、耳からはいる音楽もやはり年齢によって受け止める感性の襞が異なるようだ。
いわゆるドイツ・オーストリア、そこから派生した正統派のロシア音楽、新大陸に渡って模倣から生まれた個性の百花繚乱を通過した合衆国の音楽。
そのどれとも違う入り方。
弦楽、特にヴァイオリンの奏法の個性。
形式の中で正装しながらも、舞踏の持つ自由と激しさが沸々とトレモロの中から湧き出ている。
スペインの音楽の中に流れる濃くほこりっぽい、日常の暑熱と情熱。隙間のない大地と空の間の温度の間に時折巻きあがるヒートウェーブ。
過ぎ去った一瞬の静寂が夕方から闇に染まってゆくときの埃と涼風。
様式よりも先に生まれた音楽が、隔てられた楽章の壁を軋ませて溶け合おうともがく。
この作品を演奏しているメンバーの音楽は若く、リードするヴァイオリンが少し不安定だけれど、音楽に対する共感が感じられて好ましい。
特に第2楽章の全くこの曲以外に聴いたことがない切り口は、磨き抜かれた部分はないけれど、民衆の熱している舞踏の中に割り込んで両手に抱えてきたような生のままのノスタルジーが詰まっていて、演奏の若さと震えがな何ともふさわしいように聞こえる。
コレはどうも曲の持つ特質ではなく、演奏者の若さから来るものなのかも知れない。
練り上げた音楽がだけが素晴らしいのではない。判っているはずなのに虚をつかれた。
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Granados: Piano Quintet; Danza Caracteristica, A la Cubana, etc.
- アーティスト: Enrique Granados,Thomas Rajna
- 出版社/メーカー: CRD
- 発売日: 2009/06/09
- メディア: CD
初めてです。スペイン音楽のピアノ五重奏曲・・。
スメタナやドボルザークの馴染みやすくなっているものとは違い、
>スペインの音楽の中に流れる濃くほこりっぽい、日常の暑熱と情熱。隙間のない大地と空の間の温度の間に時折巻きあがるヒートウェーブ。
と、仰られるのとまったく同じものを感じられますが
聞き慣れると聴けそうな気もします。進んで聴きたいとまでは、行かないけど、このまま聴かないというのも後ろ髪を引かれるようで・・。
昔聴いたファリャでも聴いてみたい気分になりました。
by matcha (2010-04-11 21:23)
とても民族的で、素朴で、夕暮れの農家の食卓を思い浮かべました。
by アヨアン・イゴカー (2010-04-11 22:14)
matcha さん:そうですね。あんまり聴かない、他を選択しちゃう事が多いです。でも、スペインの音楽はギターだけでなくて、チェロ協奏曲とか結構変化球ながら面白い作品が多いです。ポーランドの音楽もそうですが、聴衆と音楽の距離がとりわけ近いと感じますね。
アヨアン・イゴカー さん:ヴァイオリンが歌う旋律はホントに白い壁を染めるオレンジの夕日の熱が伝わってくるようです。
by Mineosaurus (2010-04-12 07:25)
>ポーランドの音楽もそうですが、聴衆と音楽の距離がとりわけ近いと感じますね。
思わず、大きくうなづいてしまいました。いつもながら有難うございます。
by matcha (2010-04-12 21:40)