唯一無二 [音楽]
シューマン/幻想曲ハ長調 op.17
第1楽章 全く幻想的に、情熱的に弾くこと-昔語りの調子で-はじめのテンポで
第2楽章 中庸に 全く精力的に-ややゆっくりと-きわめて活発に
第3楽章 ゆっくりと 常に静けさを持って-やや活発に
ロベルト・シューマンの作品に漂っている癒されぬ孤独感とどこかで人種を越えた人間の持つ精神の闇。
暗い入り口からのぞき込んだ部屋に置かれた大鏡に映る自分の姿。
長調すら何処かに寂寥の影を落とす。
微笑みと優しさの中に潜む深い内省の亀裂。
ロマンティックなのは旋律だけではなく、同じ鍵盤から産み出される和音の持つ無二の陰影。
特徴的な付点リズムが産み出す異世界の抒情。
この曲はリストに捧げられているが、そこにいるリストはピアノの魔神ではなく、この曲の持つ沈黙の音を感じきる希有のピアニストの一面でこの作品に応えている。
技術的な難度から作品を評価する自己顕示欲をひとまず脇に置いておいても、この曲には弾きたいと思わせる魅力があったのだと思いたい。
リストのこの作品に寄せた評価は非常に高いものだった。
実生活でも難しい時期に入っていたシューマンはクララ・ヴィークとの恋の成就に難渋し、辛い時期に当たっているにも拘わらず、産み出される音楽は純粋でありながら複雑な人間そのもののような、光と影を宿している。
どの楽章も聴き応えがあり、素晴らしい。
例によって彼はドイツ語の速度標記に感覚的な印象を保たせている。
厳格なテンポ指定ではないので、音楽の流れと生命感を損なわないのであればピアニストの個性が非常によく出てくる作りだと思う。
いろんなピアニストを聴き比べてみたけれど、結局この楽章はあの人がよくてこの楽章はこの人がよいと、きわめて聴くものの勝手な思い込みがさらに音楽をややこしくする。
この作品の標題が顕著にでていて、ベートーヴェンに対する記念的敬意が聴かれる第1楽章がボクは一番好きです。
この彼しか書き得ない陰影に充ちた旋律と昇華した引用は、オクターブの広がりと重さと反応力が増してきた鍵盤の機能を単に技術の羅列に資するのではなく、感情表現の手段として使い切っている。
旋律は心の揺れと連動し、きわめて主観的だけれど、それは誰の心の中にも存在する音楽に感じる心と結びつく。
ロマンティックという言葉の真髄。
Youtubeは第1楽章の途中までです。
Robert Schumann: Fantasie, Op. 17; Sonate, Op. 11
- アーティスト: Robert Schumann,Maurizio Pollini
- 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
- 発売日: 1990/10/25
- メディア: CD
Schumann: Fantasie, Op. 17; Schubert:
- アーティスト: Franz [Vienna] Schubert,Robert Schumann,Murray Perahia
- 出版社/メーカー: CBS
- 発売日: 1990/10/25
- メディア: CD
Schubert: Wanderer-Fantasie; Schumann / Clifford Curzon
- アーティスト: Robert Schumann,Franz [Vienna] Schubert,Clifford Curzon
- 出版社/メーカー: Decca
- 発売日: 2000/04/11
- メディア: CD
Schumann: Davidsbündlertänze; Fantasie in C; Träumerei
- アーティスト: Robert Schumann,Walter Gieseking
- 出版社/メーカー: The Piano Library
- 発売日: 2000/05/20
- メディア: CD
Schumann: Fantasie, Op. 17; Faschingschwank aus Wien, Op. 26; Papillons, Op. 2
- アーティスト: Robert Schumann,Sviatoslav Richter
- 出版社/メーカー: EMI Classics(ご紹介したYouTubeの音源です。)
- 発売日: 1993/03/09
- メディア: CD
Schumann: Kreisleriana; Fantasie, Op. 17
- アーティスト: Robert Schumann,Evgeny Kissin
- 出版社/メーカー: RCA Red Seal
- 発売日: 2004/04/16
- メディア: CD
前記事の話しで恐縮です。
>ブリテンのカデンツァは素晴らしいです。SIRクリフォード・カーゾンが弾くとなお素晴らしい。
この事を師匠に話しましたら・・・
「クリフォード・カーゾン盤があるの・・・素晴らしい情報、あいがとう」と言われました。
今朝は、シューマンのお話みたい・・・と報告しましたら・・・
アルゲリッチが一番好きなのはシューマンみたいです。
シューマン自体、中々演奏者には理解してもらい難い・・・なんて、また
私には理解し難いような事を言い出しました(><)。
by kontenten (2010-04-23 08:40)
昨日から、何度も読みに、聴きに来ています。
いきなり属和音から入ってくるこのオープニングが、滅茶苦茶不安定で忘れられない曲ですね。
弾くのは大変ですけど・・・・
ロマンチックの真髄・・・・難しいですけど、ゆっくり少しずつ噛み締めていきたいです。
ありがとうございました。
by glennmie (2010-04-23 10:49)
kontenten さん:カーゾンはブリテンの指揮でかなり古いモノラルですが録音しています。現在のカタログにはありませんね。疑似ステレオで出したという話も聞いたのですが、カーゾンは日本であまり人気がないんですかねえ。あまりレコードを出さない人でしたから。ボクの持っているのもCDではありません。フランス在住の叔父(ヤン・フォスと言う画家です)が持っていたイギリス盤のLPです。
glennmieさん:シューマネスクって言葉ができているくらいこの作曲家は個性的ですね。ピアノソナタ第1番で魅せられてから未だにこの作曲家のピアノ曲に似た音楽を書いた人を知りません。どこかバランスがおかしいのですが、人間的なんです。心に浮かんだ音楽を形式で整えることなく昇華しているという感じ。
by Mineosaurus (2010-04-23 22:41)
ロマンチックそのものの曲ですね。大好きでした。勿論、今でも好きですが。
by アヨアン・イゴカー (2010-04-24 12:11)