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The Cello Sonata [音楽]

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柄の大きなソナタは他にもあるけれど、この2楽章ないしは単1楽章と思えなくもない第4番のチェロソナタがボクは何とも好きなのです。
ピアノ・コンチェルトもそういえば第4番が好きだなあ。

ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第4番ハ長調 op.102-1

第1楽章 アンダンテ~アレグロ・ヴィヴァーチェ
第2楽章 アダージオ~テンポ ダンダンテ(d'Andante)~アレグロ・ヴィヴァーチェ

力み返ったスケールがあるわけでもなく、実に無造作に音楽が始まる。
演奏家にとって佳麗で力に溢れた第3番のロマンティックでアポロ的な作品は弾きごたえがあるのだろうけれど、チェロの特性がもつ音色の底辺にあって表層には出ない、何ていったらいいのか、野太い擦過音が行き過ぎた後の空間にピアノの澄んだ音色が滑り込む一瞬の間が、とても内省的な深さと瞑想性を感じさせる。
例えば詩が『悲しい』と表現しなくてもその前後の言葉の持つ陰影から惻々と感じられる言葉の巧みをボクらが自分の経験や環境で育んだ情緒によって『悲しみ』として感じるように、音楽には直接形容しなくても感じることができるものがある。
そして、もう一歩踏み込んで、かつて経験や環境になかった異様を心深く沈潜し、引っ張り出してくる力を感じるものがある。
ボクが持っている固有の情緒ではなく、人間という思考動物が構成している普遍的な一部としてあるものに共鳴する。
『精神性』とか表現されるものと同義だと思うのだけれど、表現が難しい。
選ぶ側の言葉が追いついてない。
この作品の第1楽章のアンダンテにその入り口が無造作に開いていて、その気になれば誰でも入って行ける。
決して美しい音楽ではない。
ヨーゼフ・リンケのチェロのために書かれたこの作品はマリ・フォン・エルーディ伯爵夫人のピアノの技量を測りながら書かれている。
チェロが作り上げる音色の深い空白をピアノは無駄なく満たしてゆく。
モーツァルト以後こういう音楽に対して聴衆は耳を傾けるほど育っていったのだろうか。
表層をヒステリックに突っ走る超絶技巧はなく、カンタービレに溢れる媚びもない。
『追いつけない』と感じるのはブラームスだけではないだろう。
追いつけないのではなく、気づいたら自分だけがそこに立っていて、自分が早かったのかベートーヴェンが早かったのか解らない。
音楽に求めるものの違い。
驚くべき深い主観の淵から到達する普遍的な高さ。
同じ行き方がない痛切。
弾いている者が、次こそ弾ききろうとして果たせない距離。
自分はベートーヴェンではないという客観性が持つ高い壁。
第2楽章のダンダンテからの闊達なチェロの響きには歌以外の楽器の響きから直接、ボク情緒的な一部が引っ張り出される。
気軽に聞き流すには短く、構えたらあっという間に終わってしまう。
未だ聴き尽くせないソナタ。




Beethoven: Complete Works for Cello & Piano

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  • アーティスト: Pierre Fournier,Ludwig van Beethoven,Friedrich Gulda
  • 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
  • 発売日: 2006/08/08
  • メディア: CD



Beethoven: The Music for Cello and Piano

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Beethoven: Cello Sonatas & Variations

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Beethoven: Complete Music for Cello & Piano

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ベートーヴェン;チェロ・ソナタ第2番ト短調Op.5-2他 [Import from France] (Beethoven: Cello and Piano Sonatas Nos. 2, 4, 5)

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コメント 2

matcha

すごく落ち着きますね。
なぜかわかりませんが、僕はベートーヴェンを聞くと
まるで自分の部屋へ帰ってきたような気分に浸ることが
できるんです。
僕にとっての最初のクラシックが、ベートーヴェンだったから
かもしれません。
ピアノ協奏曲第5番でした。
それからは手当たり次第ベートーヴェンを聞いてました。
by matcha (2010-06-23 21:28) 

Mineosaurus

ベートーヴェンのチェロソナタやヴァイオリンソナタは彼の弦楽四重奏曲や後期のピアノソナタと共にボクの宝物です。
by Mineosaurus (2010-06-23 22:12) 

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