出口を探す歌

   シューベルト／アダージョ ホ長調Ｄ．４５９第３楽章

若書きのピアノソナタ第３番ホ長調の第３楽章。

この作品は５つの楽章に分かれているけれど、第１楽章とこの第３楽章がソナタ形式で書かれていてピアノソナタとして紹介されることの方が多い。
シューベルト１９歳の時の作品であり、本来ならばこの曲もまた作曲者が秘しておきたい作品の一つだったのだと思う。
第１楽章にはベートーヴェンの第３番ソナタの影響が大きく、再現部は晩年のモーツァルトに習っている。
成熟した作曲家が振り返れば引き出しの奥深くにそっと仕舞って鍵をかけたいところなのかも知れない。
でも、この第３楽章はソナタの緩徐楽章として他の楽章に寄りかかって呼吸を合わせている雰囲気を持ちながら、やはりこの歌を受けきる楽章が書けなかったのではないかとも思わせる。
ノブのないドアに何度も触れながら同じリズムで外に出るための鍵穴を探っている。
でも外も、その内側と同じく漆黒の心象風景があり、小さな穴から覗いても同じ闇しか見えない。
それでも外に出たいと、やがて夜が明ける風景の中に流れる時間の中に飛び出したいと、あるはずのないノブを回そうとしている。
最初の１音の孤独。
微妙に色合いを変えながら音楽は同系色のグラデュエーションを纏いつつ、一瞬モーツァルトのようにはじける感情がその後に訪れる変化のない孤独を深くする。
あまりにも選ぶ音に孤独が貼り付いていて、共感覚的な旋律の選択が痛い。
次の楽章はスケルツォ：コン　ブリオで、華やかなイ長調のスケルツォ。
明けはじめたドアの外の風景が突然陽の光のただ中に躍り出る。
貼り付いていた孤独感がすべて剥離して高窓から差し込む光の帯の中に夥しく舞浮かぶ綿埃のように浮遊する。
アダージオに感じる清新さの中に広がる闇は受け止められることなく楽天の若さの中に漂白される。
第５楽章にはその出口になるだけの強さがあるのだけれど…
複雑になればなるだけ
このアダージオはますます孤立してゆく。
出口を別な場所に求めたかった歌。
他の４楽章に折りたたまれてやはり引き出しの中で眠るべきだったか。

Schubert: Impromptus D.935; Piano Sonata No. 3

• アーティスト: Franz Schubert,Daniel Barenboim
• 出版社/メーカー: Elatus
• 発売日: 2003/03/10
• メディア: CD

Schubert: Les Sonates pour le Pianoforte, Tome 4: D459 & D845

• アーティスト: Franz [Vienna] Schubert,Paul Badura-Skoda
• 出版社/メーカー: Arcana
• 発売日: 1994/01/01
• メディア: CD

Schubert: Piano Sonatas Nos. 2, 3 & 6

• アーティスト: Franz [Vienna] Schubert,Gottlieb Wallisch
• 出版社/メーカー: Naxos
• 発売日: 2006/03/21
• メディア: CD

シューベルト : ピアノ・ソナタ全集

• アーティスト: シフ(アンドラーシュ),シューベルト
• 出版社/メーカー: ポリドール
• 発売日: 1995/08/25
• メディア: CD

コメント 3

はじめまして　おはようございます

ご来訪並び niceありがとうございます

by たいせい (2010-06-27 07:29) 

シューベルトらしいですね。
やはり交響曲第8番ロ短調も未完成に終わったのとは
違うかもしれませんが、素人はそう思ってしまいます。
by matcha (2010-06-27 17:01) 

いやいや、めちゃめちゃな荒れ梅雨の風と雨の後、この蒸し暑さ。本日は完全なサッカーによる寝不足と昼間の暑熱でダウン。ビールは飲みたし、その後の体の熱さと汗が躊躇わせる。
エーい、飲んじゃえ。

たいせいさん、matchaさん、コメント有り難うございます。今、ブログで発見したシャム猫さんのデッサンを始めております。いつになるやら………
皆様。ご訪問＆niceありがとうございました！

by Mineosaurus (2010-06-27 22:11)