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無意識の影 [音楽]

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モーツァルト/喜遊曲 変ロ長調 K.254

第1楽章 アレグロ アッサイ
第2楽章 アダージオ
第3楽章 テンポ ディ メヌエット

1776年ザルツブルクあたりの作曲といわれている。
自筆譜にはディヴェルティメントと書かれており、『ケーゲルシュタット』を経由するヴァイオリンやクラリネットあるいはチェロをピアノと協奏させるレベルに高めたモーツァルトの霊感への入り口に位置するようだ。
とは言っても喜遊曲の自由さよりはソナタ・二部・ロンドとキチンとした三楽章形式をとっており、ヴァイオリンとチェロを伴奏とするピアノソナタ、あるいはやはりピアノ三重奏曲第1番といってしまう方が良さそうだ。
特にチェロはピアノの弱い左手の低音部を補強する程度で10年後、彼が30歳あたりのト長調のピアノ三重奏曲K.496の確信的なアンサンブルまではまだ浅いところで親密な機会に演奏されるために作曲されているにすぎない。
後の作品と比べるとチェロが歌うときに支えるピアノのくすんだ音色による協奏的深化のような閃きはない。
しかし、それは20歳の彼にできなかったのではなく、そうする必要がない気の置けない仲間と演奏を楽しむための作品だったのだろうと思う。
ところが本人の意に添ったものか反したものか、この第2楽章のアダージオの爽やかで時に短調の切ない翳りが横切る数瞬の、
本心が微笑みの中に瞬間浮かび上がるような音楽は凄みすら漂う。
そこではヴァイオリンが主旋律の上にで、チェロすら己の本来の役割に気づき、思わず立ち上がりかけている。
その、演奏者を唆すもの、それがモーツァルトの無意識の持つ割り切れぬ不可解な啓示。
音楽が演奏により楽しく再現されてなお、その底に澄んだ泉の底土を舞い上げるような暗い澱。
聞き流せばいつの間にか終わってしまう普通のモーツァルト。
でも、モーツァルトの普通はいつでも不可思議な感覚をボクに与える。
モーツァルトを通じて降り続けた音楽達は、彼のプロとして起った年齢のあまりの若さなど意に介していなかった。
幼さが消化しきれなかった膨大な量の過飽和が澱のように重なってモーツァルト自身を傷つけてゆき、その自立の展望を狂わせて行くまで彼を内側から揺さぶり続けたのかも知れない。
1776年はモーツァルトにとって実り豊かな年であった。
セレナードやディヴェルティメントは10曲以上作曲され、社交的な場面で使用される音楽は人気を集めたことだろう。
でも、ちょっと立ち止まってその流れるようなヴァイオリンの優しい歌の背後に寄り添う影のようなピアノやチェロの音色を聞き分けるとき、そこにもう一人の素のままの20歳のモーツァルトがいることをボクに意識させて已まない。

                      第2楽章 アダージオ



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コメント 3

kontenten

『ケーゲルシュタット』って意味がわからなかったので
師匠(会社の部長)に聞きましたら『9ピンのボーリング』って・・・
余計、訳がわからなくなってしまいました^^;Aアセアセ
by kontenten (2010-10-15 13:14) 

Silvermac

アダージオ、蕩けますね。
by Silvermac (2010-10-15 17:38) 

Mineosaurus

Kontentenさん<『ケーゲルシュタット』はおっしゃるとおりボーリングの原形ですね。モーツァルトはこの遊びに熱中していたときがあって、その遊びの最中に作曲したトリオにこの名前が付いているのです。天才的な音楽ですが、創造の一汗の匂いもしない全くの天啓ですね。以前書いたことがありますが、ボクには順番を待ちながら丸いテーブルの端に腰掛けて両足をブラブラしながら、楽譜に走り書きする彼の無邪気な姿が浮かんでしょうがないです。
Silvermac さん<同感です。
by Mineosaurus (2010-10-15 20:05) 

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