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許されぬ音楽 [音楽]

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 許されぬ音楽
ハンス・プフィッツナー

音楽的伝説『パレストリーナ』がよく聴かれるハンス・プフィッツナー。
彼がドイツ第三帝国、とりわけヒトラー自身から多くの恩恵を保証され、約束された名誉を糧に多くの作品で応え続けたことは、いかに表現芸術が最愛の家族や彼を取り巻く生活を維持するためにやむを得ない選択であったという考え方に立ったとしても無視できぬ内容と重みを持っている。
国家に対する現実的な接し方がその芸術の中に表明されてきたかと言うことについて、プフィッツナーの作品からはその気配はない。
かつてスターリン体制のもとでショスタコーヴィチが選択した密かな苦悩はそこには聴き取れない。
彼のユダヤ人に対する発言や自由な立場において発せられたナチスドイツ擁護論。
不可知論者でありつつ民族至上主義の確立の手段として反ユダヤ論を展開する。
音楽的にも保守的立場を貫徹し、実験的音楽の提唱者に対しては苛烈な論陣を張った。
個としての彼はその思想信条を秘そうとしたことはなく、偶然それが当時のナチス・ドイツの価値観に非常に近かったという見方もできるかも知れない。実際彼はナチスの党員とはならなかった。
そんなプフィッツナーの音楽に対して歴史的評価が定まらないのは当然といえば当然かも知れない。
もう二十年以上前になるが、国民的英雄視された指揮者ズビン・メータがイスラエルの凱旋演奏会でワグナーを演奏したときの聴衆の激烈な非難なんかは歴史的事実がもはや記憶の域を超えて生理的反応にまで本能化していることを示している。
当然の事ながらプフィッツナーの評価はドイツからあまり外に出ることはなかった。
しかし、幸いにしてというかボクが彼を知ったのはその天分溢れる音楽が先であり、彼の人格や思想は遙かに遅れてボクに届いた。
それは彼のレコードの紹介がほとんどドイツ語やフランス語で書かれていたことに因る。
めんどくさがり屋のボクは当時もほとんどレコードの解説を読まず、ただ音楽を聴き、北ドイツ放送局の演奏会のテープを叔母に送ってもらって聴いているだけだった。
彼はまるでシューベルトのような美しいリートを書き、彼の作品の緩徐楽章はそのほとんどが音楽の中心に座り、美しさとロマンティシズムに満ち、深い内省の入り口を開けて待っている。
1935年に作曲され、彼がガスパール・カサドに献呈した単一楽章のチェロ協奏曲。
様式の明晰さ、洗練され、複雑さのささくれを徹底して研磨した半音階的和声。
まるでリートのような霊感的な発想の美しさを持つ旋律。
低音楽器のトレモロの上を歌い上げるカヴァティーナ。
チェロの独白の中に繰り返される金管楽器の柔らかなフォーマットの展開。
彼はボクの知る限り3曲のチェロ協奏曲を書いているが、当然ながら彼の献呈には拒絶という芸術家の意思が示されることも事実である。
彼の音楽の純粋な魅力は、その後の知識によってピアノ協奏曲以外つい最近まで聴く気を起こさぬほど損なわれていた。
気紛れに取りだして、今、紛れもなくプフィッツナーの真価を耳にした。
芸術の分析を嫌い霊感と想像の中に不可知的な意味を見いだした音楽家の自発的な作品はそれ自体彼の思想信条を超えたところに達している。
許されぬ音楽はない。
許されぬ人が産み出したとしても…

プフィッツナー/チェロ協奏曲ト長調op.42

 標記 とてもゆっくりと-速く-とても静やかに





プフィッツナー:チェロ協奏曲 第2番イ短調Op.52/同1番ト長調Op.42/同3番イ短調

プフィッツナー:チェロ協奏曲 第2番イ短調Op.52/同1番ト長調Op.42/同3番イ短調

  • アーティスト: プフィッツナー,Werner Andreas Albert
  • 出版社/メーカー: CPO
  • 発売日: 1987/10/01
  • メディア: CD



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