優しく流れる歌 [音楽]
グリンカ/ヴィオラ・ソナタニ短調 (未完成)
第1楽章 アレグロ モデラート
第2楽章 ラルゲット マ ノン トロッポ
第1楽章は 非常に魅力的な歌が流れる。
優しい歌。
ピアノ導かれる素朴でセンチメンタルな旋律はそのままヴィオラの中音の滑らかなカンタービレにすう…と溶け込んでゆく。
厳しくもなく、意思的でもない音楽はただただその場にいる人々のそれぞれの記憶や今の情緒の上を傷つけることなく流れ、目を閉じて回顧する者のセピア色の記憶を優しく取りだしてゆく。
非難するでもなく、ヒステリックに立ち上がったまま、高音と共に舞い上がるような縦の空間はない。
テクニカルな部分が、主張するように情緒の穏やかなラインを超えて無遠慮に顔を出すこともない。
これはこういう音楽なのだと、こちらも優しくなって聴いていられる。
富裕なロシアの家の次男として生まれ、環境に競う部分がなかったためか、イタリアやドイツに遊学した記憶とスラヴ的な音楽の持つ湿度が彼の中で気品を持って攪拌され、醸成されている。
『ルスランとリュドミラ』序曲が持つパイパーなスピード感とは異なる彼の実像が彼の後に続いた5人組のナショナリズムを炙り立ててアジテートするのではなく、じっくり醸成させていったのかも知れない。
第2楽章は終結部が欠けていて消えるように閉じる。
本来は第3楽章にロンドを持ってきており、それがフィナーレとなるはずだった。彼が20歳の頃に書かれたもので第3楽章はスケッチ程度のものが残っているに過ぎない。グリンカはこの頃に書いたもに似いくつか未完成のものがある。第1楽章と第2楽章のテンポは速度標記以上に似通ったものを感じさせ、ロンドでの展開の帰結をつくりにくくなったのかも知れない。
とても穏やかで優しいモノフォニカルな歌である。
この曲はヴァイオリンでも演奏されるけれど、音の持つ質は明らかに載せる情緒の色合いを異にする。
第1楽章をバシュメットのヴィオラで
Fyodor Druzhinin - Viola: Sonatas for Viola and Piano
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: Melodiya
- 発売日: 2005/09/16
- メディア: CD
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