本気のロマン [音楽]
ブラームス/弦楽六重奏曲第1番変ロ長調OP.18
第1楽章 アレグロ ノン トロッポ
第2楽章 アンダンテ マ モデラート
第3楽章 スケルツォ: アレグロ モルト-トリオ:アニマート
第4楽章 ロンド:ポコ アレグレット エ グラツィオーソ
おそらくはブラームスが敬愛するボンの巨匠が書かなかった分野で自由なロマンティシズムを広げきった数少ない作品。
この分野には目の前にベートーヴェンの背中はない。
さすがに音楽としては第2番の練熟した構成には及ばないけれど、ここにはブラームス27歳の本気がある。
響きの重層性を好むブラームスの適正が交響曲以外で十全に発揮されているのがこの分野の2曲。
ヴァイオリン2、ヴィオラ2,チェロ2
第1楽章 シンフォニーの気概を掲げている。
広々と広がる主題の恰幅の良さ。何処にも遮るもののない天と、黄金色の草原。陽は真上にあるけれど、適度な風が乾いた清浄を生んでいる。主題が語り始めるいくつかの物語は曲調のうねるような旋律の中に次第に色を滲ませ、視野に残るもの全てがセピア色のトーンに移ってゆく。でも、そこに晩年の疲れや諦念のような渋みはなく、最後の一滴まで竣烈な青春の芳香がある。
これは響きの構造が個々の弦楽器の特性を実に巧みに重ねてあるので、楽器の数が多ければそれだけボリュームが厚く、交響的な弦楽合奏を構成してゆくんだろうね。
低音弦楽のピチカートが爽やかに楽章を括る。
第2楽章は ご存じのアンダンテ マ モデラート。
もうあまり観るという人も少ないかも知れない、モノクロームの映画で若かりしジャンヌ・モローとアラン・キュニーのまあ、今でいえば30歳の大金持ちの夫人とポロ選手の若者の不倫の物語なのだろうけど、学生当時でも、映画自体はクラシックな映画の部類に入ってた。
でも、この鮮烈なロマンティシズムが白黒の気品のある画面の美しさによく合っていた。
ヴィオラが奏する焦がれるような気分的なテーマが総奏の中で変奏されてゆく。
クララ・シューマンのためにピアノ用に編曲した作品もこの音楽の二つの大きな線を右手と左手が辿ってゆく表現は同じ。
却ってそのピアノを聴いてからこの合奏を聴くと、城のような御殿から真夜中に眠れず外に出た主人公と待っていた若者の逢瀬の感情の高まりを切れのある白と黒で表現していた美しいモノクロームの映画のシーンが重なる。
ルイ・マルの映画のシーンがどうもボクの中に定着してしまってそれ以外の想像が働かない。
チェロ主題を奏する終結近く、ホントに純粋で人間くさい音楽が胸に来る。
でも、その次に続くスケルツォもボクは好きなのです。
舞踏の音化。高次で纏まりながらメヌエットとは異なる優雅さとは違う人の息づかいがするステップが見える。この辺の呼吸はベートーヴェンの『これでどうだ?』というような押し出しがないだけ、素直な音楽だと思うけどな。
第4楽章 もっとも室内楽的なフィナーレ。まあ、ロンドだから。
渋さが勝つブラームスの音楽の袋小路の熱っぽさはなく、広々していてよく歌う。低音楽器のポリフォニックな動きが快い。
久々に聴いたけど、いいね。うん。
やっぱり、第2楽章だろうかね。第3楽章も好きだけど。
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