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小さな手のラフマニノフ [音楽]

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ボルトキエヴィチ/ピアノ・ソナタ第2番嬰ハ短調op.60

第1楽章 アレグロ マ ノントロッポ
第2楽章 アレグレット
第3楽章 アンダンテ ミゼリコルディオーソ(慈悲深く)
第4楽章 アジタート

ナデージダ・ヴラエワ

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個性が被ってしまった作曲家には何処かに似せようとする弱点があるのだけれど、この人はドイツ・オーストリアの後期ロマンティスト達の作品に影響を受けたロシアン・ロマンティストであって、それによって作風がラフマニノフやチャイコフスキーに似ているというのであれば、ラフマニノフやチャイコフスキーそのものがそういう立ち位置にいたのだと言うことに他ならない。
少なくともラフマニノフやメトネルとは同世代であったのだから。
音楽的価値は評論家や音楽史家が決めるのではない。
その音楽にお金を払う古今の我々が決めるのである。
彼らはそのパイロットであるに過ぎず、決して作曲家自身でも一人の聴衆の立ち位置にも滅多に立つことは出来ない。
録音技術がなかった当時の楽譜の出版が、聴くものの素養をランク付けしていたことは確かだけれど、今の時代に生きるボク達は様々なメディアの露出を選択し、自分の感性で音楽を幅広く受け容れることができる。
『この動機の関連性が見事に右手の旋律を活かしている』などと言えなくとも、好きか嫌いかを判断できる。
そこから逆に、何故、好きなんだろうと問い始めると生き物が持っている音への本質的な感応に行きつく。
ソウルもロックも演歌も古典音楽も同じ場所に行きつく。
ただ一点。
現代の実験音楽が持つ究学的方向性は感性とは別のものが加わっていて、大衆はそこにテーマや構成はあっても心が見つけられずに後ずさりする。
人間が他の生き物と異なるとされる理知の芸術というものの創作。
芸術家の試行と思考、受け取る側が音楽を通じてそこに至る快感、頭で理解する音楽。
確信はないが、それもまた感性が寄り添うために理知という道具を使っただけのことではなかろうか。
とりとめも際限もない話になって行きそうだねこれは。
ボルトキエヴィチのソナタだった。
全楽章を通じてあふれ出すロマンティシズムと決して深くはないけれど、ラフマニノフよりも浅いとは決して言えぬ仄暗い心の色合い。
リストの技巧の上にロシアの緩やかなロマンティシズムが加わるとラフマニノフのように響く。
そう表現することはできるけれど、そこから個々の聴衆が受けるそれぞれの印象を覆すには至らない。
音楽は語るものではなく、聴くものであり、言葉はそのきっかけになるだけの話だから。
表現者としてボルトキエヴィチはメトネルやラフマニノフほどの技量と華はなく、彼我の差について熟知していた。
でも、自分の中にある音楽には技量ほどの差がないこともまた知っていた。
だから自分の作品に自信があったのである。
ラフマニノフもいいけれど、私の作品も劣ってはいないと。
聴くものの評価はそれに諸手をあげるものでもないけど、この第2番のソナタはすばらしい。
決してベートーヴェンを追っかけているような作品ではなく、後期ロマン派の典型的な音楽であり、ピアニスティックであり、音質はいかにも洗練されたロシアンリリシズムを感じる。
シューマンの持っている特有の偏った影ではなく、仄暗い中にあるマッシヴなロマン。
第1楽章ナハトムジーク(夜の歌)である。
重ねられる和音の後に続く旋律の静けさはラフマニノフやショパンの個性であると思っていたものに酷似する。
メトネルが徹底的に研究し、排除したそれがここには堂々と居座っている。
それを好ましいと感じるか、二番煎じと捉えるか聴くものの嗜好も重なる。
ボクはラフマニノフを得意とするピアニストがこの作品を弾けばもっと曲趣は明確になると思っている。
ボクが聴いているのはYouTubeで第2から第4楽章が紹介されている女流ナデージダ・ヴラエワ
の録音版の演奏で、ライブのYouTubeよりも遙かに明確に聞こえる。
このピアニストは女流だけど、手は大きくて柔軟。楽々弾いている。
特に第2楽章スケルツォに相当するアレグレットの左手はちょっと見とれてしまった。
ボクが一番気に入っているのは第3楽章。
闇わだから入り緩やかに縹色に開けてゆく空の色が、イルミネーションも喧噪もない無音の自然の現象として広がってゆくようなロマンティックな歌が好きです。
ところが、この楽章のライブは音がよろしくない。
第4楽章のアジタートは実はボクはこれが一番個性的だと思っている。

でも、ここはYouTubeでは明晰な演奏が唯一聴けるフィンランドのピアニスト、ヨウニ・ソメロの演奏で第1楽章を。ちょっとアンダンテみたいなテンポになってるけどね。

 







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