意思で石を削る [音楽]
ポール・デュカス/ピアノ・ソナタ変ホ短調
第1楽章 モデレメント ヴァイテ
vite
第2楽章 カルメ-ウン-ピウ-レント-トレ ソーテヌー
Calme - un peu lent - tres soutenu
第3楽章 ヴィヴェメンテ,アヴェック レガーテ
Vivement, avec legerete
第4楽章 トレ レント-アニメ
Tres lent - anime
近年、アムランやフランシス-ルネ・デュシャーブルやステーンハマルのピアノ曲なんかのCDも出しているヴァウリンやスティリアーニなど、この長大なソナタに挑戦するピアニストが増えてきている。
最初にボクが聴いたのはフォレの演奏でも定評があったジャン・ユボーのレコードだった。
アムランのはYoutTube でライブのものが聴けるけれど、後の3人と同様にCDが出ているらしい。
でも、どいつを聴いてもフランス語で書いてある速度標記がよくわからん。
何となく音感覚で理解しているようなものだね。
デュカスはフランス語では最後のsを発音しないでデュカと書いているものもあるけれど、本人がデュカースとか言っているという記録もあったりしてはっきりしない。
パリ音楽院で彼のクラスにいた作曲家の大澤 壽人(ひさと)さんはどう呼んでいたのか。
まあ、呼び方はどっちでもいいけど、彼は音楽教師としても相当優れていたようで、当時の彼のクラスにはメシアンを始め、ホアキン・ロドリーゴ、デュリフレ、ポンセやこのソナタを録音したユボーなどボクでもわかる名前がたくさんいる。
デュカスという人は自分の作品に対して非常に客観的で厳しい評価を行った人で作曲家を廃業するとき、見事なまでに未完の作品を破棄し、残すべき作品を削りに削った。
その結果、現在は10数曲の作品が残っているに過ぎない。
それでも彼の作品が演奏されることはあまりない。
あ、ディズニーの『魔法使いの弟子』で使われた音楽は特別だけどね。
そんな彼の器楽曲の中でこのピアノ・ソナタは非常にレベルが高い。
そして、オッそろしく長い。
まあ、ベートーヴェンの第29番のソナタとほぼ同じだと言えばわかるか。
ベートーヴェンにはフーガという武器があって、彼の深化した外から影響を受けない音そのものの持つ意思的な印象がひとつの方向に螺旋を描いて昇って行く。
この20世紀に踏み出したばかりの空気に包まれた変ホ短調は、それなりに様々な印象派やロマン派や古典派への回帰と選択に窮するスタイルを気合いで整列させているところがある。
それでも、ユボーのように作品を紹介し、ザッハリヒに作品自体に語らせる演奏から
第2楽章の静謐と深呼吸をするような速度感の中で選ばれる再現者のセンスが作品の深化を聴かせる時代に入っている。
それぞれのピアニストは現在のピアノ技術の最高を持ち得ているテクニシャンであり、フランス的な伝統の血を引き継いでないアムランにしてここではサイボーグのような技術よりも第4楽章で聴かせる細やかな間合いに残るペダルのニュアンスを残すことに集中している。
轟音の中から浮かび上がる旋律の優しさと潔癖なアルペジオがとんでもない集中力の果てにたどり着くメロディの生々しさとヒロイックなエンディング。
どの楽章も聴くたびに滑らかで薄く音楽の表面に残った意思の鑿の跡を発見する。
例えばベートーヴェンの第29番のソナタのあの長大なアダージオが鼻歌で出てくるくらいの回数聴いたのと同じくらいの時間をこのソナタに費やすには、ジジイのボクにはあまりにもう時間がない。
まったく、とんでもない音楽を残してくれたものです。
アンドレ・アムランの苦心のライブから第4楽章。12分もある。集中集中。
ご訪問、nice! 有難うございます♪
by hi−ragi (2012-11-14 10:04)
ディズニーとベートーヴェン以外の人名を
知りませんでした^^;。
勉強になります。
by SU-SAN (2012-11-15 18:15)