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哀しみのアンダンティーノ [音楽]

音楽が、そこで聴き入る全ての人に共通な楽しみであると同時に、個々の聴衆の心に抱える鏡に映り、鋭く、あるいは時に深くとれない棘のように刺さる。
モーツアルトの音楽は時に彼が生きていた当時の人々の音楽であることを拒む。


モーツアルトは聴衆に求められた娯楽という枠を超えた音楽を常に描きながら、生活のために繰り返す妥協に蝕まれてゆく。
それでもモーツアルトはクリスティアン・バッハやその他の先人と同じ場所にはとどまらなかった。
そんな中でフランスの女流ピアニスト、ジュノムがザルツブルクに訪れた時、彼は閉塞した音楽環境から飛びだしてゆきたい、その羽の通る大空につながる僅かな隙間を彼女に見つけたのだろうか。
彼女に献呈されたこの曲は当時の彼が押さえ込んでいた、協奏曲のスタイルの拡大やパトスへの衝動を気品あるたたずまいでかいま見せる。

時に哀しげに流れる粒だった音の美しさ。
時にぽつ、ぽつ、とうつむいて呟かれるようでいて濁りがなく、どこまでも透き通った切なさ。
聴衆はブリリアントな第1楽章や貴族的なスマートさと明朗性と魅力的なカデンツァ(アインガング)が鏤められた第3楽章に挟まれた第2楽章の長大なアンダンティーノの中のモーツアルトの本当の心の住処に気づいたろうか。
書くことによって暮らしを立てることは、書き続けることで生きなければならない。
自尊も愛も尊敬も名誉もその中にある。
書き続けることができるためには、己の才能と信じる道を貫いてゆくことと図らずも同じ道ではない。
でも、モーツアルトはその道のほんの僅かな光りを明るくたおやかな長調に挟んだ短調の中に見いだしたのではないだろうか。


モーツアルト/ピアノ協奏曲第9番変ホ長調K271 第2楽章アンダンティーノ(ハ短調:ソナタ形式)


 
Mozart: Concertos for Piano and Orchestra No. 9 KV 271 & No. 19 KV 459

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  • アーティスト: Wolfgang Amadeus Mozart,Carl Schuricht,SWR Stuttgart Radio Symphony Orchestra,Stuttgart Radio Symphony Orchestra,Clara Haskil
  • 出版社/メーカー: Haenssler
  • 発売日: 2005/01/01
  • メディア: CD

Mozart: Piano Concertos No. 9 & 21

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  • アーティスト: Wolfgang Amadeus Mozart,Murray Perahia,English Chamber Orchestra
  • 出版社/メーカー: Sony
  • 発売日: 2004/07/27
  • メディア: CD

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