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ポリーニというピアニスト [音楽]

世のクラシックファンには「アンチ何々」という聴衆がいて、その人の演奏についてはその演奏家だけは絶対に認めないと言う強硬な人がいらっしゃる。
そりゃね、コンサートに期待していって、自分の思ったような演奏じゃなくってがっかりすることはあるけれど、ライブってそんなモンだね。
曲が終わる前に「ブラボーっ」て立ち上がって拍手する人もよくわからんけれど。
「アンチ何々」っていう人はその演奏家のCDなりを買うのかね。
ボクなら嫌いな人の演奏をひょっとして好きになるかもってな感じで、自分が好きな演奏家のCDを我慢してそっちを購入して腹立てるってことはしたくない。
どうなのかなァ…


まあ、世の中にはこいつ嫌いだと思っていても、もう少しつきあってみたらこいつの良さが分かるかも知れないとつきあってみて、「ああ、やっぱりこいつ嫌いだ」って思うこともあるだろうし、決めつけられないところだけど、ポリーニって言うピアニストにはアンチが多いみたいだね。
アポロ的でブリリアントなピアニズムが特徴だけど、ピアノの音色に何ていうか色がないって言うのか、色気がないって言うのか、非常に即物的な鏡みたいな音だと感じる。
この人のピアノはアシュケナージなんかが生の方が遙かにピアノらしいいい音を聞けるのと違って、演奏会でも同じように聞こえるね。そういった意味ではブレがない。
「美しい演奏なんてものはあり得ない。美しい作品があるだけだ。」という言葉は即物主義的演奏を表現する端的な言葉だけれど、ポリーニのピアノはそんな感じだね。
ベートーヴェンを弾くのとノーノを弾くのと同じように克明に作品が浮かび上がる。
こんなに強靱な音楽なのかと思いつつボクは凄絶な質量を近代ピアノの最高峰の機能を持つスタンウェイから叩き出す彼のハンマークラビールソナタを聴き、シューベルトの第21番のソナタを聴いた。
影がない。
あまりに真上から日が当たりすぎて影が見えない。そう思ったこともある。
ストラヴィンスキーのペトルーシュカでのデビュー。
ショパンの練習曲の衝撃。
バルトークの第1番、第2番の協奏曲での瞠目すべき技術と音質の持つ透徹感。
シューマンのソナタや幻想曲に聴ける無機質から生まれる作品の持つロマンティシズムとの奇妙な溶け合い。
その全てにボクは贅肉のない裸の知覚を感じる。
だからそれをボクが求めたくない愉悦的な、例えばモーツアルトの作品のような変幻自在なデリカシーを持つ作品を彼の演奏で満足させられたことはない。
 彼のピアノは1+1が2であることが予定され、より複雑な数式であっても理路整然と論理を追ってゆく現代音楽に非常に適した音色なんだろうと思う。
でも、それこそが今、最も鍵盤楽器として発達を遂げたピアノ・フォルテと言う楽器の正当な鳴らし方なのではないだろうかとも思ったりする。
彼の演奏するリストのロ短調ソナタを聴いた。
はじめに1980年代の何回目かのウィーン芸術週間での彼の同作品の演奏を聴き、それからCDという順番で聴いた。
CDの演奏はひょっとしたらライヴ録音かとも思わせるものもありましたが、ソナタの方はスタジオなんでしょうね。
どちらも凄い質量を感じるピアニズムでリストが書いた以上のものは鳴ってないんだろうが、これほど集中力のいる作品なのかという疑問も湧いた。
凄まじい強打にも濁りがなく、テンションが張りつめた後の弛緩するべき緩徐の一音まで澄み切っていて冴えきっている。
「これがリストの書いた楽譜なんです。」といわれた気がする。その最高の再現が行われたのだろう。
その吹っ切れ方は、あの驚嘆すべきショパンのエチュードを聴いた時と同じ生理的爽快感がありました。
ピアノが完璧に鳴ったところで全てが終わり、「リストはここまでなのです。」といわれたような気もする。
でも、同じようにベートーヴェンやシューベルトで全てが終わったかというと、そうではなかった。
それはポリーニのアプローチの違いと言うより、浮き彫りにされた作曲家の持つ思念や、内省や業や懊悩の深さそのもののように思える。
ポリーニのピアノは鏡のようにそれを映し出している。
リストのソナタには音が持つ力と楽曲が持つ巧緻な構成の他になにも写っていなかった。
ポリーニはちょっと斜めから日を当てれば見える影を敢えて作らないのか、真上から照らす太陽のようだった。

 
リスト:ピアノ・ソナタ

リスト:ピアノ・ソナタ

  • アーティスト: ポリーニ(マウリチオ),リスト
  • 出版社/メーカー: ポリドール
  • 発売日: 2000/02/02
  • メディア: CD

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コメント 1

クロチルド

素晴らしい評です。影に頼らずに真上から照らす、というのは、全ての音楽評論家に聞かせたい。ありがとう。
by クロチルド (2009-03-14 05:35) 

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