最初の長編-孤独と混乱の音 [音楽]
シューマン/ピアノソナタ第1番嬰ヘ短調OP.11
第1楽章 序奏 : ウン・ポコ・アダージオ-アレグロ・ヴィヴァーチェ
第2楽章 アリア : センザ・パッシオーネ、マ・エスプレッシヴォ
第3楽章 スケルツオ: インテルメッツオ:アレグリッシモ
第4楽章 フィナーレ: アレグロ・ウン・ポコマエストーソ
それまでのピアノ小曲集が珠玉であれ、何であれ、その先に進むにはシューマンにとって取り組まねばならなかったピアノソナタであった。
それまでの文学との創造の共有の残滓を引きずりながらも、彼は一歩踏み出した。
印象的な広い左手の三連符のフォーマットの上に鋭く孤独の歌が広がる。
沈黙から異様な寂寥感を感じさせる主題。序奏とはいえこのソナタの全ての要素が盛り込まれ、はち切れそうになった技巧と精神の均衡が崩れそうな一歩手前で踏みとどまった静謐によって閉じる。
分裂的でありながらその瞬間瞬間にたとえようもない美しさがある。
危ういロマンティシズムを匂わせながらシューマンの幻想性がひっそりと膝を抱えている。
第2楽章には標題通りの歌があり、歌謡性に富み、簡潔で美しい。
第3楽章スケルツォは中間部でポロネーズ風になり、このリズムと音取りが混乱ともとれるけれど、シューマンらしくて好きです。
真剣さがはぐらかされて、当時の頭の固い批評家は眉に縦皺を刻んだことでしょう。
圧巻は最終楽章。
この混沌と幻想性はあんまりものが詰まりすぎていて一聴整理されていないようにすら感じる。
日が暮れて家に帰った子供は食卓で母親にその日の出来事を一度に5つも8つもごちゃ混ぜにしてしゃべる。
母親はその混乱に戸惑いながらも、我が子の感受性の底知れぬ鋭さに危ういものを感じながらも愛しさを感じる。
この楽章はボクにそんな想像をさせる。
長大なロンド形式のおしゃべりは止むことはなく、あるものは明るく軽く、あるものは深く深刻でロマンティックな物語を口々にしゃべり続ける。
捉えきれない形を聴かされるが、僕はそれが決して嫌いではない。
- アーティスト: ポリーニ(マウリチオ),シューマン
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1997/05/08
- メディア: CD(アポロ的造形の中に多くのものが隠れてしまうけれど、第1楽章の主題の音色は大好きです。)
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