憂い顔の騎士 [音楽]
エルガー/チェロ協奏曲ホ短調OP.85
第1楽章 アダージォ~モデラート
第2楽章 レント~アレグロ・モルト
第3楽章 アダージォ
第4楽章 アレグロ・モデラート~アレグロ・マ・ノントロッポ
今世紀に書かれたチェロと管弦楽のために書かれた音楽の中で最高の作品といわれる。
チェロという楽器はViolinCello(VC)と書かれるように歌う楽器であるヴァイオリンの眷属であり、その長であるヴァイオリンやアルト・ヴァイオリンであるヴィオラとは全く弾き手が探る音の方向が異なる。
ヴァイオリンやヴィオラの高音は奏者の手許に近く、チェロの高音は奏者から最も遠い位置にある。
つまり、このエルガーの第1楽章の序奏の中、乾いた冬の落日の陽光が、消えゆく一瞬の高揚を示すように燃え上がる部分、その高音の階(きざはし)を一気に飛翔する屈指の旋律は、その天馬空を行くような上昇感覚とは逆に、チェリストは苦しげに身を2つに折れんばかりに屈め、チェロの最下部のブリッジに最も近い高音部まで力を込めたその左手指を下降させて行く。
生まれた音楽と生み出す楽器のギャップをこれほどはっきりと示すフレーズも珍しい。
とはいえ、ボクは様々なチェロ協奏曲のある中、このイギリスが生んだ恋多き紳士の作品が最も好きなのです。曲全体を包むセピア色のくすんだ陽の光は、厚くたれ込めた雲の間から、移ろうように差し込んでは雲間に隠れて行く。
時は水平に流れながらゆっくりと下降し、夕映えが、かけがえのない人の顔すら見えない闇に隠れてしまうまで、澎湃として心に温みを満たしてゆく。
クラリネットとホルンによって縁取られたチェロの独奏が、優しくも侘びしい孤独の美しさを歌うアダージオは、楽譜だけではなく、奏者の人生の質が問われるような音楽です。
沈鬱な思いを引き吊りながら、戻れない人生をたぐり寄せるような第4楽章のチェロのむせび泣くような序奏から古い写真の赤茶けた懐かしさが幾重にも浮き上がってくる。
孤独と矜持と動揺と毅然がひとつのフレーズに込められ、赤と黒は闇の色に近づく。
そんなときでも不思議とこの曲は何処かに細い光りの筋が温もりを伝える。
『憂い顔の騎士』この曲に付けられたニックネームである。
不思議とこの男性的な作品は女性の奏者に愛されている。
実際エルガーという人の作品にはヴァイオリンにしてもこのチェロにしても女流奏者の名演奏が多いように思う。
忘れられない演奏は2つ。
パブロ・カザルスのモノラルと何度も取り上げたジャクリーヌ・デュ=プレの演奏です。
後者の第1楽章の音楽の飛翔をさわりだけ。
楽器は彼女が最初に贈られたストラディヴァリウス。後に愛用していたダヴィドフと呼ばれたストラディヴァリウスとは違うけれど、その音のメロウな響きは数百年を経た木の響きとは思えない。
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- アーティスト: エルガー,ウォルトン,アンドレ・プレヴィン,オスロ・フィルハーモニー管弦楽団,ダニエル・ミュラー=ショット(Vc)
- 出版社/メーカー: ORFEO
- 発売日: 2006/06/05
- メディア: CD(ヨアヒム・ラフのチェロ協奏曲も弾いているイケメン実力派です。)
- アーティスト: マイスキー(ミッシャ),エルガー,ブロッホ,シノーポリ(ジュゼッペ),バーンスタイン(レナード),フィルハーモニア管弦楽団,イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2008/01/23
- メディア: CD
- アーティスト: バッハ,エルガー,バルビローリ(サー・ジョン),デュプレ(ジャクリーヌ),BBC交響楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2006/07/26
- メディア: CD(これ以上は何もいらない演奏です。)
- アーティスト: カザルス(パブロ),ドヴォルザーク,エルガー,ブルッフ,セル(ジョージ),ボールト(エードリアン),ロナルド(ランドン),チェコ・フィルハーモニー管弦楽団,BBC交響楽団,ロンドン交響楽団
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2003/02/26
- メディア: CD(未だにこのジャケットのアナログレコードが宝です。)
休養日のため応援☆^^
by デルフィニウム (2009-01-31 09:40)