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楽興の夜 [音楽]

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ラフマニノフ/楽興の時作品16から第4曲 プレスト

ラフマニノフの『楽興の時』。
シューベルトのそれとは全く違っていて、6曲続く曲集の第4曲までまるで地の底で語られている恋歌のように仄暗く、ロマンティックな曲が続く。
なかでもこの第4曲のプレストは圧巻である。
緩やかなラルゴやアンダンテで語られるロマンティシズムが物狂おしい情動の奔出で語られる。
リストの超絶技巧練習曲の『マゼッパ』のようだけれど、あの曲にあるようなヒロイックなロマンはない。
左手のしなやかな指先で繰り出される粒の揃ったフォーマットに右手の歌が重なる。
常に一定のリズムを軽くもなく重くもない、まるで全力で走った後の心臓の拍動のように濁り重なることなく、地の底を震わせる。
作曲者ほど大きく蜘蛛の手のような関節の自由を持たぬ天才達は、その通奏の流れを断ち切らず、一定の速度を保つためにその状態を左に傾けている。
ラフマニノフはこの曲をほとんど正対した状態をゆらすことなく、左手の巨大なスパンの中にその音楽を握り込んでいた。
何も足さず、何も省かないその淡白さは、自身のゆとりの中で生まれた音楽であることを聴いているものに改めて思い知らせた。
余談だけれど、リストは例えば『マゼッパ』に自分だけの装飾を付け加え、その時だけの即興にありあまる自身のゆとりを示していたという。
そのもの凄まじさと玄妙な音楽性は名手揃いの彼の高弟達に微塵の批判も口にさせぬほどの圧倒ぶりであったとされる。
彼がピアノ弾いている絵画は彼が高名であったが故に数多く残されているが、彼が鍵盤に目を落として弾いている絵は一枚もない。
他のピアニストにはない次元である。
流石のラフマニノフもそこまではないだろうけれど、この独特の抒情の表出は彼以外の何ものでもない。
それはYouTubeの中で見られる天才的子供達がミスなく弾く同曲からは決して響いてこない『間』が生むものである。
このホ短調は6曲の高いレベルの作品の中でとりわけ抜きん出ているとは決して思わないけれど、左手の規則性の中にある息づかいのようなニュアンスのレベルがこの作品のファンタジーを決める。

ラザール・ベルマンのピアノで

  

 

ラフマニノフ:ピアノ名曲集

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1997/09/18
  • メディア: CD

ラフマニノフ:前奏曲集/楽興の時

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  • アーティスト: ニコライ・ルガンスキー,ラフマニノフ
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2011/08/17
  • メディア: CD





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コメント 2

nana_hyr

ラフマニノフ、画像で弾いている姿を見ると
自分の左手がつるような気もしてきます。
でももっと聴いていた~い^^
by nana_hyr (2012-02-15 13:19) 

ニッキー

ラフマニノフピアノ曲集持ってます。
大好きなCDの1つです^^
by ニッキー (2012-02-16 16:33) 

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