明快 [音楽]
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第2番イ長調op.2-2
第1楽章 アレグロ ヴィヴァーチェ
第2楽章 ラルゴ アパッシオナート
第3楽章 スケルツォ:アレグレット
第4楽章 ロンド:グラツィオーソ
この曲も第1番とセットでハイドンに捧げられている。
輪郭が明確で太い。
この作品2とされる一連の作品は、それぞれが彼の作曲人生において繰り返されるイマジネーションのを象徴しているかのようだ。
第1楽章は跳ね上がるようなオクターヴから始まり、目の前の石を思いきり蹴飛ばしたら、以外と転ばないのでかけていってもう一度けっ飛ばしている間に夢中になるような線と点が明快に聴き取れる。
イ長調の第1主題に仄暗いホ短調の第2主題が若々しくも絡まってねじれてゆく。
ニュアンスをつけて弾くよりもその勢いの中にある気力みたいなものが感じられる演奏がいい。
後半は思ったよりピアニスティックでロマンティックで力無い暗さが浮き上がると続いて手を取ってそのまま空に放り投げるような第1主題の再現が深呼吸するように静まる。
第2楽章はこの時代におそらく他には聴けないようなラルゴである。第7番のメストの予兆のような情動が趨り、チェロのピチカートのような前のめりの若さをしっかりと支えている。
ラルゴでアパッシオナート。
この辺がベートーヴェンの内省に深く根ざしている表現方のあり方を示しているようですね。
ハイドン先生が瞑想しつつ跳ね上がるたびに『ほう!』とかいって膝でも叩きそうです。
第3楽章はおそらく名称では最初のスケルツォ。
でも、彼はメヌエットと称していても同じ用にスケルツォであったりするのであんまり気にせんね。トリオはイ短調。
最後の楽章はロンド。アルぺジオが軽快でちょっと体が動く。大柄なモーツァルト。
イ短調の部分は情熱的で、楽器の進化にタイムリーな技巧が披見されていて、ちょっとベートーヴェンの意外な根っこに行き当たったような楽しさがある。
ここだけ聴くとベートーヴェンだと思わない人もいるんじゃないかね。
その後のベートーヴェンから姿を消してゆくとてもモーツァルト的な要素がみっちり詰まっていてボクはとても微笑ましく彼の若さと意欲を聴く。
演奏は第2楽章。アンドラーシュ・シフで。この曲もボクはグルダの剥き出しのベートーヴェンの若さが好きなんだけれど、彼のは全曲だからね。
Quartets After the Beethoven Piano Sonatas Op 2
- アーティスト: Pierre Blondeau
- 出版社/メーカー: Alpha Productions
- 発売日: 2007/09/04
- メディア: CD
素晴らしい曲を聴かせていただきました。ハイリゲンシュタットに一人で5回ほど行きシンフォニ-6番を彼がどんな気持ちで創ったのかほんの少しでも感じてみたかったのです。ボンの彼の生家にあった機械工メルツエルから贈られた補聴器を見た時、彼の苦悩を考えずにはいられませんでした。何という大きさ!そして、果たしてそれはどれくらい役にたったのだろうか?・・・聴こえていた人が聴こえなくなった時、1813年あたりオ-ケストラの指揮者として、また作曲家として生きてゆかねばならなかった彼にとっては、弟達に遺書を書いてしまった心境が痛々しく私の心に突き刺さります。2度の手術を受けたとはいうものの、現代医学であれば簡単に治っていたはず。嗚呼とても残念です。
Mineosaurusさんのあまりに詳しい音楽の解説や感想には圧倒されますがこれから音楽を聴くうえでとても参考になります。また訪問させてくださいね。
by amaguri (2012-09-01 20:34)
amaguri さんコメントありがとうございます。この頃のベートーヴェンは自由ですね。耳が聞こえなくなってからの作品は外からの音楽から自分の中に蓄積された音の森に入り込みながら、自分の感性に響いたものを取り入れているように感じますね。外から取り入れるものではなく、内省の閉ざされた部分との対話から生まれる音は特異な感動を持っています。
by Mineosaurus (2012-09-02 07:00)