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素晴らしき醜 [音楽]

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第15番イ短調から

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この曲を紹介するときは大抵第3楽章を避けて通れなくなる。
ベートーヴェンが重篤の病から奇跡的に(本人はそう信じた)回復した喜びを神に感謝するため、リデア旋法を用いヘ調でかかれた第3楽章はもともと4楽章構成であったこの作品132に挿入されたと言われている。
彼以後の例えばブラームスが第3番や第2番の弦楽四重奏曲でメロディアスな旋律を必死に堪え、抑えることによって近づこうとしたベートーヴェンの世界は少なくとも緩徐楽章においては分析し、理解され、模倣されるべき範として裾野を開拓された。
でもね、避けて通れない第3楽章を敢えて避けてみて今回再認識したのはその後の楽章でした。
今まで何度も書こうとは思ったんだけどね。
第14番と同じくこの作品も第1楽章の初音を聴いた瞬間に終了するまでの過程が一直線で頭の中を趨る。
ボクはその音を考えながら追いかけてゆく。
ミスチルの新しい歌を覚えるように、ボクはもう何回聴いたかわからないこの作品に飽きることがない。
ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲の特徴は弦楽四重奏曲のアンサンブルの核心に作曲者の個性(主観)がどっしり座っているところか。
奏でる歌が美しいという表現をされるにふさわしいかどうかは思いの外にあるようにボクには思える。
それはブラームスを含め彼以後の弦楽四重奏曲という理想的な弦楽アンサンブルを客観的に表現方法としてとりつつ、汲み尽くせない先人の作品に試行錯誤しているのとは根本的に違っている。
視点を変えれば、音楽としての王道は彼の後輩達にあるのであって、ベートーヴェンただ一人が異質であったとも言えるほど立ち位置が異なる。
全く異なることから無意識に離れて作曲したのはシューベルトとバルトークくらいではないか、などと思ったりもする。
第3楽章は行進曲風の前半が経過し、ヴァイオリンがレチタティーヴォを奏でる。
でもそれは高ぶって歌い上げられる技術的に聴かせどころとしたものではなく、あくまでアンサンブルの中のパートが引き続き演奏される第4楽章のコメンテイターを演じることに徹底している。
そして、そこにつながる歌は決して美しいものではない。
美しいか美しくないかという表現であれば美しいという表現には当たらないという程度のものである。
残念というより、悔しいけれど、美しくない美しさとか、醜さの中にある美とかいう表現に寄りかかるしかない。
そこがボクの限界だね。
セリオーソ(第11番)に通ずる旋律。
浮いたところがなく、整えようとした跡も感じられない。
心から直截的に発せられた歌。
哀切を捉えられなくはないけれど、この音楽の印象をロマンティックなものに無理に結びつける必要はない。
繰り返されるテーマは滑らかに研磨されたものではなく、触れれば表面がざらついている。
それでも、何度か触れていると自分の指先がざらついているのか音楽の表面がそうなっているのかわからなくなる。
人の心には親しい感情や愛しい感情、慈愛に満ちた心根だけでなく、憎悪や侮蔑や嫌悪など様々な悪感情も構成要素として存在する。
混沌とした宇宙のようにそれらは人の心の中に同時に存在する。
ベートーヴェンの音楽にはそれを峻別していない人間臭さがあって、美しいと感じるよりももっと速くシンクロする部分がある。
美・醜を超えたもの。
それがなんなのかもう少しで判りそうで、言葉にできそうなのだけれど、いつもその頃になるとジジイの疲れた脳細胞は眠気に負けるのである。

著作権の切れた演奏を選んだので、音がよろしくない。演奏は素晴らしい。
YouTube にアップロードしたときは第5楽章の終わりまできっちり入っていたはずなのに再生すると途中で切れる。
何パターンか創って何度かトライしてみたけれど、結果に大差がないのでとうとう諦めた。
第5楽章の終わり近くで音楽が切れてしまっています。
でも、ボクが聴いていただきたかったテーマの部分は入っていますのでご容赦。






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すーさん

タイトルを見て一瞬えっ!?と思いましたが、
読んでなるほど。
作曲をしているのもそれを聴くのも等身大の人間。
率直に書き上げた曲ゆえに呼ぶことができた共感
なのですね。
by すーさん (2012-12-19 10:34) 

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