共鳴する音粒達 [音楽]
ブラームス/7つの幻想曲op.116から第4番ホ短調「間奏曲」アダージオ
目を閉じていても開いていても、これほど1音が切なく響きながら周りの空気と溶け合ってゆく瞬間が多く感じとれる、そんなピアノ曲はブラームスの他にはあまり思い浮かばない。
華はないけれど、惻々と染みいる寂寥が人の温もりでほどけてゆく過程が描かれているように響く。
この頃のブラームスは身内や友人の死に相次いで見舞われ、沈潜した気分が作品の中にも聞こえると言われるけれど、それが晩年にさしかかった自分の諦念や孤独や侘びしさだけが作品を支えているのではないだろうとも思ってみたりする。
それでも、やはり、この作品116の7曲はきわめて個人的な心象を描いている。
全て短調で書かれた7曲のうちもっとも静かな音楽であり、音と音の間の空気との共鳴の美しさが際立つ。
単調な音楽だけれど、精緻に仕上げられ、角が全て取られて磨かれている。
地味な色彩ながら描かれている心象は深く、ピアノニストは指先で生み出された音が鳴りきるまで音を追い、聴かねばならない。
ペダルで空気を弾き込みながら次の音に短い物語を繋ぐ。
やたら遅くてもダメ、簡潔な音楽だから速いと何も感じないまま終わってしまう。
難しいだろうね。こういう具合に弾くのは。
この曲に関してはギレリスとアファナシェフはよく似ていると思った。アファナシェフはもっと遅い。
音楽がこわれる直前まで、共鳴が閉じる瞬間まで決してページを閉じない。
それでいて音楽は深く言葉を超える。
こういう演奏ってどうやったらできるの?
アファナシェフの演奏は59分10秒あたりだね。他の作品も続けて演奏している。
長いからそこだけ聴いてみようという方はどうぞ。
下のビデオ紹介はギレリスです。こちらも中庸だけれどいい演奏ですね。
Piano Works Vol. 3 (Op. 116-119)
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: MD&G Records
- 発売日: 2011/07/12
- メディア: CD
Piano Concerti 1 & 2 / Fantasies Op 116
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: Polygram Records
- 発売日: 1990/10/25
- メディア: CD
休日の夜、ゆっくり楽しませていただきました
by Miche (2013-03-24 00:16)