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D567かD568か…ややこしい [音楽]


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シューベルト/ピアノ・ソナタ第7番変ホ長調D568

第1楽章 アレグロ変ホ長調(D567では変ニ長調)
第2楽章 アレグロ クワジ アンダンティーノト短調(D567ではアンダンテ嬰ハ短調)
第3楽章 アレグレット変ホ長調
第4楽章 アレグロ モデラート変ホ長調(D567ではアレグレット変ニ長調)

schubert.jpg   変な書き方になったけれど、この人の作品の特徴と言うよりは後世の人間が捨てるに忍びなくて、つい保存してしまった作品の断片というのがこういう形になる。
似たように小品がやたら残っている作曲家にシベリウスがいるけれど、この人は若いとき貧しくて、ピアノがない部屋で食べるためにリクエストを請けて小品を作曲していた。
シューベルトはちょっと違っていて、途中で放り出しているものが多い。断片っていうやつ。
それでも、その欠片の中にある旋律の美しさは捨てがたい。
でも、このD568とこの作品の元となったD567やガシュタイン交響曲と第9番「グレート」なんかの関係はちょっと違う。
シューベルトが残そうとし、後に出版したのはD567ではなく、このD568であり、ガシュタインではなく、グレートである。
もっともグレートは彼をリート作曲家程度に考えていたメンデルスゾーンがシューマンと供に故人の家を訪れ、書斎にあった第9番の楽譜を見てぶっ飛んで、自分で初演に及ぶまではグレートそのものも幻であったのだけどね。
D567は第7番変ニ長調の3楽章形式として完成していた。
でも、彼は自分でこの作品を全音階高い変ホ長調で練り直し、出版している。
つまり、改作したのであり、彼が望んだのはピアノの運指が優しいか難しいかという問題ではなく、D568の7番であったろうと言うことです。
それでいいじゃないかとボクは思うのだけれど、D567まで世に出さなければいけないのだろうかね。
シューベルトの創作過程を検証するとか学術的には理由はいくらでも付けられるだろうけどね。
ジジイの耳には調性は異なるが、D567にはない3楽章を除けばあまり違いはないように思う。
強いて言えばD568はほんの少しずつ複雑になっている。
第1楽章は再現部でシンコペーションするだけ凝ってるということか。
いずれにしろそんなに複雑な音楽ではない。
1音1音は軽く、飛翔するほどの天啓はないけれど、しっかりと歌う。優雅さと明澄さが実にスムーズに入れ替わる。
そして、第2楽章の深くはないけれど、息をするように音の周りに醸される寂寥とロマンティシズム。
アルぺジオーネ・ソナタのピアノに最初に顕れる音形と酷似した冒頭から、シューベルトらしい息の長いくり返しが生む転調への流れ、単調なだけに滲みる。
第3楽章 メヌエットだろうね。一息で雰囲気がかわる。ベートーヴェンのような思念の翳りではなく、移ろう心そのものの音化。こういうやり方で彼は何かを伝える音楽を作ろうとすれば何度も何度も同じフレーズを繰り返すことになるのだろう。
意思的に音を作りそこに終結を置く創造とは異なる。
音の中にその時々の移りゆく自分を重ねて行く。
成熟と供に心の言葉は多岐に亘り、音楽は様々な変化を生む。
そのほとんどがロマン的な和声に縁取られ、あまりにも美しく響き、浮力に満ち、耳と心はその深淵の中にある作曲者の孤独にまで潜って行けない。
第4楽章は作曲されたD567とあまり大きな違いはない。
中間部にショパンのように軽快に走る左手の動きが新しく加わっており、アレグロよりもじっくりと聴かせるピアニストが多い終楽章としての彼なりの纏め方が自然でテンポ的に似通ったものになるのを防ぎたい気持ちの8分の6拍子だろうけど、結果的にここを弾き飛ばすピアニストはあまりいない。
音の持つ響きの中に全てがある。
でも、その「ある」ものは普遍的な人の内省の模様を含んでいなくて、音そのものの持つ色合いが聴くものの感性と共鳴する。

ボクの欲しいイメージを伝えてくれる演奏は残念ながらまだ見つけていない。 
音の美しさとシューベルトの音楽の流れを淡々とはじき出す演奏はある。
ウィルヘルム・ケンプの演奏は彼の本質がベートーヴェンよりシューベルトに近いのかも知れないと思わせるものです。 

 その第2.第3楽章を続けて

 





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コメント 5

めい

音楽にとても詳しいので毎回感心しながら拝見しています
拝見するだけで難しすぎてコメントができませんが
しっかり最後まで読ませて頂いています^^;
遅くなりましたがブログの紹介をありがとうございます♥

by めい (2013-07-01 12:25) 

テオ

シューベルトが好きです mineosaurusさんの紹介を読むと、曲の展開が思い浮かびます。
by テオ (2013-07-01 17:39) 

Silvermac

お願い
私は美術の教養がなく、絵画のことは殆ど分かりません。当分大塚美術館作品をアップしますが、作者、題名など、時間的余裕がなく、記録することが出来ませんでした。
厚かましいお願いですが、お分かりのことがあればお教えいただければ幸いです。
by Silvermac (2013-07-02 09:46) 

Mineosaurus

めいさん:コメントありがとうございます。音楽は弾くより聴く方がずっと大好きですが、評論家のような言葉はなるべく使わないで、自分が耳で聴いた音楽の色のイメージや感性に同化出来るものを言葉に置き換えたいと心がけています。音楽理論で帰納したものではありませんので勝手なことを書いている程度に気楽に読んで下されば幸いです。
テオさん:シューベルトはよくわからない作曲家です。でも、ボクも好きですね。
by Mineosaurus (2013-07-02 09:51) 

RuddyCat-Lalah

毎回、ここまで曲の背景や作曲家についての造詣や
曲を聴き込まれておられ凄いと思います。
作曲家やその曲の背景など私はこれまで考えた事が
なかったのですが、そのような事を知った上で聴くと
曲の印象も変わってくるのでしょうね。
by RuddyCat-Lalah (2013-07-02 18:46) 

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