香気と明晰 [音楽]
レイノルド・アーン/ピアノ五重奏曲嬰ヘ長調 1921
第1楽章 モルト アジタート エ コン フォーコ
第2楽章 アンダンテ(ノン トロッポ レント)
第3楽章 アレグレット グラッツィオーソ
アーンの室内楽はほんの数えるほどのものだけれど、残されているものはどれも独特の雰囲気と空気感を持つ。
ピアノ三重奏曲は何処かにソースがあるのだと思うけれど、残念ながら手に入らない。
歌曲ほど熱心なファンがいるわけではないのだろうね。
第1楽章 決然としたピアノの和音の後の潔いテーマ。
ドイツ的な重厚さはないけれど、フォーレが持っていたサロンと古典の幸福な融合をここにも聴くことができる。
その意味ではアーンは純粋な開拓者ではないけれど、持っている個性が余すところなく彼の美質である歌謡性を支え、作品をあるべき位置に据える。
フランス近代の音楽はフランス人自体が気づいたとき思いの外深く広かった。
ただ、ルクーにしろ、アーンにしろ出生地はそれぞれ国を異にするけれど、芸術に対する寛容は彼らに生涯を終えるまでの安息を与えてきた。
この楽章には香気の醸成を煽り立てるような弦楽のビブラートはいらない。
明晰な力と切れ。
それが音楽の芯を支え、明朗で協奏的な推進力を生む。
特にテーマがピアノパートに顕れるときの躍動感は素晴らしい。
(今回はソースが5MBに限られているので、その部分まで紹介できなかった)
聴くべきはフランス室内楽に共通する緩徐楽章ではない。
もちろん第2楽章がイケないと言うつもりはない。
ただ、あまりに印象主義的で厚いフィルターを通した陽の光の中で個々の表情をのぞき見ることができない人々の中に置いてゆかれたような頼りない感覚がある。
葬送の調べのようなピアノの中を粛々とすり足のヴァイオリンが歌う。
この作曲家は弦楽から弦楽への受け渡しが巧みで、その点ではフォーレと遜色ない。
アンドレ・キャプレやガブリエル・デュポンとかラヴェルの時代には優れた音楽家がいたけれど、この人もまたホントに見落としてはいけない人ですね。
弦楽の主題がポツポツとピアノに浮かび上がり、弦楽の重奏が寄り添うように心を引き立てようと同じ旋律を繰り返す。
ピアノ四重奏曲第3番のような行き着く先が見えてこない。
もっともそれは4楽章形式ではなく、作品を急・緩・急の3楽章形式にしたための意識的な混沌であるかとも思える。
第3楽章は進む先々でグルービィな光の靄の中から第1楽章のテーマが顔を出す。
第1楽章と第2楽章のテンポが混ざり合った中をバランスのよいシンプルなテーマが交錯してゆく。フィナーレらしい広がりを持った好ましい楽章でした。
YouTubeにもライブですが演奏がありました。
でも、録音のせいとは思いたいのですが、水で洗いすぎた白菜の浅漬けを食べているような感じで何とも………
で、今回は手持ちのソースをちょこっと
第1楽章のさわりです。
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