液体金属のような [音楽]
ルイ.ヴィエルヌ/ピアノ五重奏曲ハ短調op.42
第1楽章 ポコ・レント:モデラート
第2楽章 ラルゲット・ソステヌート
第3楽章 マエストーソ・アレグロ リゾリュート
全ての楽章が序奏をともなっているように聞こえる。
ボクはオルガン芸術の方はからっきしで、たまに凄いという演奏にでくわすとワクワクするのですが、ルイ・ヴェルヌも演奏家として凄い人だったらしです。今そんなボクでさえ知っているリリー・ブランジェやアンドレ・フルリーやモーリス・デュリュフレを世に出した先生であるなどということも全く知らなんだ。
ボクは彼のどちらかというとマイナーかも知れない室内楽に惹かれたもので、その辺の耳の楽しみを綴る程度です。
その彼が1917年に作曲したこの作品は難物であるが、調性の浸潤する中で明確でロマンティックな主題が展開される。
重量のある液体の金属がゆったりと傾斜のついた板の上を滑って行くようなバス。
陰鬱で浮遊感のあるフォーマットに流れるリリカルなテーマは美しく、もう少し聴いていたいと思うところで消える。
ショーソンの足並みの揃ったパトスではなく、アンサンブルそれぞれが流れながら金属的な質量を感じさせる。
聴き込むにつれ、テーマが纏うアンサンブルの展開はフォーレのようだと感じる。
したたかで傷を付けにくい弾力。
こりゃ、ひょっとするとやがては名曲とされる『格』を持った作品なのかも知れないと感じ始めて座り直した。
再現部でのダイナミックなピアノ。
シンフォニックなアンサンブルから抜け出るときの静寂と主題が写り込んだピアノに絡むチェロ。
そこからもう一度弦楽がトレモロを趨らせる中で縹色の夜が明けて行くような終曲。
第2楽章繊細な感性がそれぞれの弦楽器から幽かな擦過音となって旋律に纏まる。
ピアノはこれはもう、こういう入り方は才能としかいえない。
こういうのが一度に頭の中に響くのかね、作曲家って。
異世界の人間だね。
ピアノの簡潔に刻むリズムが次第に力を増してくるとすぐに次の展開がある。
とても物語性がある楽章。
チェロが語るのを唱和するようなピアノと他の弦楽のアンサンブルは頂点から、鋭いトレモロがかき分け、静謐まで針の先を指の腹で探っているようなスリリングな感覚を語る。
時折出てくる不穏な動機はどこかで聴いた感じがしてたけれど、ショスタコーヴィチの第5交響曲の主題に似ていたんだね。
ただ、それは流れる固い液体が板の上のささくれに引っかかって残した音楽の分身のようなもので、全体の流れをどうにかするものではない。
いよいよこれは凄いかもと思いだした。
第3楽章ピアノの打ち出す警句に高音の弦楽が反応し、特有のトレモロの中で様々なテーマが回想され、次第に何処かにはけ口を求めて堰止まった水銀が白銀の光を放ちながら溢れて溢れ始める。
厳粛な部分から次第にブラームスのような熱を帯び始め、速度を上げながら行進し始める。
確信した。
この作曲家を聞き逃して来たのは、というより遅まきながら聴ける機会があったことに感謝したい。
どの楽章も調性音楽として質が高く、近代フランス音楽から現代に至るリングをしっかりと繋ぐ。
フィナーレは素晴らしい。
こういう音楽は楽章ひとつを取りだして紹介するのは難しいけれど、この第3楽章なら心と体が動くか。
第3楽章を
- アーティスト: Louis Vierne,Reynaldo Hahn,Stephen Coombs,Chilingirian Quartet
- 出版社/メーカー: Hyperion UK
- 発売日: 2001/11/13
- メディア: CD
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