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音楽が留める涙 [音楽]


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ヤナーチェク/ アンダンテ

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弦楽合奏のための楽曲を彼はいくつか残している。
その幾つかはとても美しく、彼のオペラ『利口な女狐の物語』の中のアダージオに見せられたボクは一時期彼の弦楽合奏曲を探しまわって聴きあさった。
アンダンテでは牧歌的な弦楽オーケストラのための『牧歌』の第1曲が美しい風景を描きこんだおだやかな望郷的作品でボクは好きなのですが、
ここで聴くアンダンテはそれとは違う。
上記の作品がドヴォルザークを思わせる雰囲気を持つのに対し、この曲は悲しむべき闘いの跡の黒く焼け焦げた匂いが鼻を突く中に煤だらけの顔を上げて立っている若い母の姿を思い浮かばせる。
彼女は決して為す術もなく呆然と立ち尽くしているのではない。
失ったものの大きさを知っている。
彼女が待ち続けた者の帰郷がただの望みになったとしても、それでも
彼女の心の芯の中に勁く、しなやかに残っているものは失われることはない。
愚直なまでの現状肯定とそこから飛躍する力が、瞳の奥に光を宿している。
涙は瞼の縁にとどまり、頬を伝うことはなく、やがて煙に燻されて揮発する。
灰色の厚い雲間に澎湃と光が射し
焦げた大地に斜めに影を落としたその母の足元に同じ覚悟の目をした幼子が彼女の粗末な上着の袖をしっかり握りしめて
ただ黙って立っている。
彼女の右手はすべての思いを伝えた後の安息の優しさでその小さな頭に置かれ
自らと子供のために言い聞かせる。

「Wir leben hier」









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