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2番目の1番 [音楽]

BPO.jpg

ブルックナー/交響曲第1番ハ短調 (1865-1866)

第1楽章 アレグロ
第2楽章 アダージオ
第3楽章 スケルツォ: シネル(急速に)
第4楽章 フィナーレ: ベヴェークト・フォイリヒ(快速に.火のように)

Bruckner.jpg   もう、とっくに記事にしてると思ってたけど、してない気もする。
最近ちょっとよその県に行く機会があって、その行き帰りにNightWishと交互に聴いていた。
7時間くらいぶっ通しで高速を運転していたので疾走感がある曲と山の中を抜けるときに聴くこの曲が楽しかった。
彼は自分の作品にあまり自信を持っている人ではなくて、生前から作品の批判に対しては敏感で、そのせいで自分自身や他人やらで何度も作り直している。
この作品にも版がいくつかある。
そういう版毎の違いを聞き分けて楽しむ方法もあるだろうけれど、ジジイは音楽が淀みなく流れ、この作曲家の特徴である響きの自然な交響があればそれでいい。
彼の自信のなさは、基本的な音楽的知識が(例えば対位法であるとか、主題の扱いであるとか)欠けたところから自由に音楽を想像していたところにあるのかも知れない。
決まり事の中で音楽を想像して行く技量はあったのだろうけれど、それをさほど気にしないおおらかさが、音楽界の厳格性に触れて萎縮したように感じる。
彼にはもう一つ恐かったことがある。
第9番を書いてしまうと死ぬという何人かの作曲家に訪れた結果をジンクスとして怖れ、第1番を書いた後に0番を書いて自分の天命に抗おうとした。
成功しなかったけどね。
それでも、できあがった音楽を素人のスタンスで聴くのは楽しい。
第1楽章はバスの行進曲風の多少ぎこちないリズムにホルンの遠近感のある合いの手が入る。これが第1主題になる。
旋律が明確に詠われ、その変化の道筋を予感させる主題作成ではない。
響きに仕事をさせる。
この辺が『すばらしい!…でも、主題は何処だね?』とか当時揶揄された由縁だろうけど、現代の耳と柔軟さ(物怖じしない知識不足)があれば、ブルックナーはすぐ隣に座って微笑んでくれる。
旋律が一本の糸を通すのではなく、自然の中の響きが持ち寄ってふわりとした交響の空間を作る。
ワグナーのタンホイザーのテューバとヴァイオリンが聞こえ何度かのアチェレランドとリタルダンドをくり返しながら情熱を込めて閉じる。
彼の音楽を支えている骨組みが楽譜ではなく、黒い森の木々に反射する自然の音達であるかのように響き拡散し、集って流れる。

第2楽章は、ここで古い演奏だけれどヨッフムがベルリンフィルを振ったときの演奏を前半だけ紹介する。
低く、くすんだ弦楽から導かれる抒情的な音の流れは、やはり一本の線を修飾してゆくものではなく、それぞれ抒情性を含んだ音達がヴァイオリンやホルンを通して重なり集う。
ファゴットが珍しくブルックナーの歌を聴かせる。
それはこの曲で唯一音響から旋律が醸造され、美しく駆け抜ける数瞬である。
この楽章はブルックナーの抒情に関する感覚とシンフォニストとしての音の扱いが他の作曲家と際立って異なることが惻々と伝わってくる。
静かな旋律が流れ、メロディアスな歌が形作って行くアダージオではない。
高い音も低い音もそれぞれ目一杯鳴ることによって形作られる静けさを持つ。
文字で表現するとそんな矛盾を隠せないアダージオ。

第3楽章のスケルツォは、大好きです。衝動的にステップが踏まれる舞踏。
金管は細かく切れ切れに音楽を寸断するけれど、人が持つリズムの根源を閉ざすものではない。
原始的だけれど何処かに舞踏が終わった後の生身の温もりを伝える。

第4楽章は火のように始まる。
面倒くさい決まり事は全部はじめに済ませるっていう気概で第1主題が投げ出され、ぁ、ぁ、と思っているといつのまにやら第1ヴァイオリンとチェロが第2主題を、あややと思う前にコラール風の第3主題。それぞれに第1主題が噴き上がり、まるで何かの序曲のフィナーレのように激烈に鼓舞され、響きは広い入り口から狭い出口に向かってレミングの遁走を初め、コーダは膨張した頂点で破裂する。
ま、この頃はまだ元気だねこのおじさん。
何度聴いてもこの人の音楽はその時の有り様のまま心に届く。
かつて聴いたときの場所に戻るのではなく。

全曲通してお聞きとはいいにくいけど、この演奏。なかなかでした。


ブルックナー:交響曲第1番

ブルックナー:交響曲第1番

  • アーティスト: ヨッフム(オイゲン),ブルックナー,ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2005/10/26
  • メディア: CD

Bruckner: Symphony No. 1

Bruckner: Symphony No. 1

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Imports
  • 発売日: 2006/08/21
  • メディア: CD

ブルックナー : 交響曲 第1番 ハ短調 WAB101 (ウィーン稿1891) (Bruckner : Symphony No.1 ''Vienna'' version, 1891 / Claudio Abbado , Lucerne Festival Orchestra) [輸入盤]

ブルックナー : 交響曲 第1番 ハ短調 WAB101 (ウィーン稿1891) (Bruckner : Symphony No.1 ''Vienna'' version, 1891 / Claudio Abbado , Lucerne Festival Orchestra) [輸入盤]

  • アーティスト: ブルックナー,クラウディオ・アバド,ルツェルン祝祭管弦楽団
  • 出版社/メーカー: accentus music
  • 発売日: 2013/07/10
  • メディア: CD
Bruckner: Symphony No 1

Bruckner: Symphony No 1

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Arte Nova Records
  • 発売日: 1999/02/09
  • メディア: CD





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序奏の美 [音楽]

Dresden.jpg
シューマン/交響曲第2番ハ長調op.61

第1楽章 ソステヌート アッサイ-アレグロ マ ノン トロッポ
第2楽章 スケルツォ:アレグロ ヴィヴァーチェ
第3楽章アダージオ エスプレッシーヴォ
第4楽章アレグロ モルト ヴィヴァーチェ


RSchumann.jpg

序奏部のトランペットの柔らかな音色にふわりと降り注ぐ弦楽の旋律が対位する美しさは何度聴いてもよろしいね。
トランペットをまず聴く。
そしてその中にもう一つの音楽が啓示的に流れる美しさを聴く。
それだけでもいいやね。
「ハ長調のトランペットが頭に響いている」1845年9月に盟友メンデルスゾーンに書き送った手紙はこの部分を指しているのかな。
序奏部で育った動機の反復が第1主題の形をなし、それは様々に変幻し闘争的になり、厚みを増して意思的になり、あるいは滑らかに滑り降りる。
第1番の雰囲気を引きずっているけれど、シンフォニーの中心がオ-ケストラノ中央に重なるとき、忘れかけていたシューマンの音楽がぴったりと耳についてくる。

第2楽章のスケルツォはシューマン独特の同じ音形のくり返しが多く、弦楽器が近代的だと乾きすぎて押しつけがましくなる。
ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の古雅な音色はローカリティが残っていながら洗練を纏いこの音楽を穏やかな微笑みの中でひろげてみせる。
ボクは以前セルやクルト・マズアの演奏を聴いていたのだけれど、こういうのもいいなあ。

第3楽章はハ短調のロンド形式。
主部のヴァイオリンのメンデルスゾーンでも書きそうな愁いの歌が美しい。
この楽章だけカラヤンがベルリンフィルを振ったときの演奏をYouTubeで聴いた。
めちゃめちゃ奇麗なのです。
こういう方向もやっぱり残って行くべきなのですねえ。
唯美的だけど、美しさはダントツですね。
シューマンがどっかへいってしまい、音楽の持つ魔味が蜘蛛の糸のように絡みついてくる。
でも、ボクはきっと飽きてしまうだろうなあ。
カラヤンでボクが今でも鳥肌が立つのはシェーンベルクの『浄夜』です。アレは凄い。
てなわけで、もう一度パーヴォ・イェルヴィの振ったドレスデンSKに戻った。
第4楽章 一部と二部に別れているかのような長大ななコーダを持つ。
メンデルスゾーンのイタリア交響曲の冒頭を思い出す。
展開部を見つけられないソナタ形式から始まる。長大なコーダ部分は変幻し、第3楽章の歌を拾い出しながら壮大なフィナーレがティンパニの連打で結ばれる。

演奏はいくつもいいのがあったのだけれど、第1楽章序奏部と第3楽章に古雅な音色が曰く言い難いドレスデンの音を
全曲掲載なので第3楽章は19:21位から始まる。
ライブレコーディングです。



Schumann: Symphony No. 2 & Overtures

Schumann: Symphony No. 2 & Overtures

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Sony Import
  • 発売日: 2012/12/11
  • メディア: CD
シューマン:交響曲第2番

シューマン:交響曲第2番

  • アーティスト: シノーポリ(ジュゼッペ),シューマン,ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2006/04/12
  • メディア: CD
Schumann: Symphonies 2 & 3

Schumann: Symphonies 2 & 3

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Hanssler Classics
  • 発売日: 2010/07/27
  • メディア: CD
Symphony No. 2/Overtures 'genoveva' & 'manfred'

Symphony No. 2/Overtures 'genoveva' & 'manfred'

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
  • 発売日: 2013/06/06
  • メディア: CD
4 Symphonies

4 Symphonies

  • アーティスト: Robert Schumann,Leonard Bernstein
  • 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
  • 発売日: 2003/03/26
  • メディア: CD





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黴の匂いの中から [音楽]

ViolinCello.jpg

ロベルト・フォルクマン/チェロ協奏曲イ短調op.33

第1楽章 アレグロ モデラート
第2楽章  アレグロ ヴィヴァーチェ
第3楽章 アレグロ ヴィヴァーチェ
第4楽章  ウン・ポコ モデラート

連休も終わった。
いくつか書きたい日常もあるけれど、決算期の今はちょっと疲れてて集中力がない。
4月から5月にかけて公私共にさまざまな出来事があってようやく落ち着いてきた。

今日はやっと取れた休日。
とりあえず、気分を変えて音楽です。

Volkmann.jpg    数年も日を浴びず空気の止まった中に眠っていた音達が冒頭の旋律の中に立ち上がる。
チェロの響きの何処かなつかしい低音には弓が低弦に触れるたびに光の中に微少の埃を舞い上げる。
コンパクトで彼以後の異国の作曲家が目指したようなスケールを追いかけた音楽ではないけれど、目を覚ました音は整然としていて魅力的である。
ヴィルトゥオーソのために書かれたようで技量を聴かせる部分が多い。
音楽の繋がりはチェロを中心に管弦楽は添え物のようなヴァイオリンで言うとパガニーニのそれのような部分が多く、
正直あまり好みではなかったけれど、チェロの独奏に数瞬合わせる管弦楽の旋律は美しく、錬られている。
この第1楽章にこの管弦楽の序奏があれば聴く方の集中は『20%がとこ違うのになあ』と思ったりする。
同じロベルトであるシューマンのチェロ協奏とイメージが似ていなくはない。
全楽章は続けて演奏される。
演奏者によって17分から19分強まで、いくつかの録音があるけれど、YouTubeではそのうちの2曲が聴ける。
ボクはどちらかというと遅い方がうまくいっているように感じるね。
引き飛ばさず、オケとの感覚をよく打ち合わせた上でバランスに重点を置きつつチェロはよく歌っている。
このダニエル・ミュラー(腕時計ではない)・ショットというチェリストはイケメン君でヨアヒム・ラフなんかのチェロ協奏曲も弾いていた。
当時は長髪を後ろで括っていて白面の美男だったけど、何年かの年を経て顔つきにも影が差して深みが出てきた。
演奏も比例しているね。
技術的には圧倒するものを持ちながら非常に知的にコントロールしている。
オケとチェロ間合いの中の息づかいが絶妙でこういう気の使い方をすると音楽は自分で誇りを落として輝き始める。
第2楽章のアレグロ・ヴィヴァーチェの独奏部は無伴奏の深さすら感じさせる。
1727年製のマッテオ・ゴフリラーの細身で反応のよい音は彼の知性を乗せるのに最適の楽器なんだろうね。
演奏は気に入った。

フォルクマンの作品も例によって室内楽から聴き始めた。
弦楽四重奏曲に流れるベートーヴェンとシューベルトの特異な混交はここには聴けない。
ボクはもう一度室内楽に戻っていこう。





シューマン:チェロ協奏曲、R. シュトラウス:チェロとオーケストラのためのロマンス 他 (Schumann, R. Strauss, Volkmann, Bruch / Daniel Muller Schott)

シューマン:チェロ協奏曲、R. シュトラウス:チェロとオーケストラのためのロマンス 他 (Schumann, R. Strauss, Volkmann, Bruch / Daniel Muller Schott)

  • アーティスト: シューマン,R. シュトラウス,フォルクマン,ブルッフ,クリストフ・エッシェンバッハ,北ドイツ放送交響楽団,ダニエル・ミュラー=ショット (Vc)
  • 出版社/メーカー: ORFEO
  • 発売日: 2009/12/25
  • メディア: CD

Romantic Cello Concerto 2

Romantic Cello Concerto 2

  • アーティスト: Albert Dietrich,Friedrich Gernsheim,Robert Schumann,Robert Volkmann,Hannu Lintu,Berlin Radio Symphony Orchestra
  • 出版社/メーカー: Hyperion UK
  • 発売日: 2007/03/20
  • メディア: CD

Most Beautiful Cello Concertos

Most Beautiful Cello Concertos

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Hanssler Classics
  • 発売日: 2010/04/27
  • メディア: CD








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無銘の美 [音楽]

Georgy Catoire.jpg

長いピアノの導入に続く浮遊感のあるヴァイオリンの羽のような軽さが風に舞うように閃く。
決してヒステリックなものではなく、音楽はコントロールされた広い空気感の中に踊っている。
全方位的な光と影のマダラ模様は、これはもう印象派特有の音彩を聴かせる。
かつてヴァイオリンとピアノのためのエレジーに聴けたロシアの仄暗いロマンティシズムは毛ほども顔を見せず、
洗練と繊細で覆われた皮膚が、実践的で好戦的な筋肉を隠しつくしている。
フランス系ロシア人ピアニストであり、作曲家であったこの不遇の天才の血の本筋は、ロシアの大地ではなく、奔放さが詩になる国の血から迸る。
凍り付く降雪の中に杭のように佇む鼓動が作る歌ではない。
寒くても月明かりで歩く石畳にこぼれる石造りの建物から洩れるセピア色の灯りの中に聴ける歌である。
ピアノに求められる高いテンションとヴァイオリンの緊張と弛緩の数瞬に産まれる揺れるようなビブラートが醸す枯れる寸前の
華の最後の香り。
ベル・エポックの香りである。
あと一歩踏み出せば、簡潔と数学的音形を観念的に知覚する時代に届く、その一歩手前で音楽は19世紀にきびすを返す。
作曲者は自分の立ち位置に揺るぎないプライドを持っている。
切り裂かれても無視されても皮一枚で堪えるだけの糧を作っている。

速度標記はそれと区別が付くけれど、楽章で区切られているわけではない。
『詩』が詠う対象に言葉の数を増減し、一行に込める意味の密度を変えるように、感性に置き換えられた文字を視覚的に捉える美しさを持ち合わせているように、彼の音楽は楽興の高まりに応じてその強さを変える。
これはある意味ワグナーが用いた手法に寄り添っているように感じるけれど、結果はずいぶんと離れたところに果実を落としている。
これは当時のロシアで受け容れられる音楽ではなかったのだろうね。
オイストラフが弾いたモノラルの掠れた音色からは、音楽の中に流れているはずの自分と同じ匂いを探しているように聞こえる。
でもボクは録音の新しさとかではなく、この若々しい男女の醸す素晴らしい音楽に出会ったときの、夢中と真剣を好ましく聴きます。
音楽も、演奏も素晴らしい。

ゲオルギー・カトゥアール/ヴァイオリン・ソナタ第2番op.20『詩曲』

アンダンテ~アレグロ~モデラート

Youtubeの音楽はオイストラフのものも紹介する演奏も2つの部分に区分されています。
ここではその前半を






カトワール:ヴァイオリンとピアノのための作品集 (Georgy Catoire・Works for Violin&Piano)

カトワール:ヴァイオリンとピアノのための作品集 (Georgy Catoire・Works for Violin&Piano)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: CPO
  • 発売日: 2010/02/10
  • メディア: CD





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闇の風 [音楽]

ViolinCello.jpg
ルイ・ヴィエルネ/チェロとピアノのためのソナタ op.27

第1楽章 ポコ レント;アレグロ モデラート
第2楽章 モルト ラルガメンテ
第3楽章 リゾリュート;アレグロ モルト

Vierne.jpg

1910年、20世紀に入ってから書かれた作品。
フォーレ以来の様式を踏襲しつつ、響きについて独自の領域を持つ。
冒頭はバッハの無伴奏から立ち上がるような印象の底の入ったチェロの音色。
リリカルなピアノのテーマが歌われると音楽はアレグロへと加速する。
時間のうねりがクッキリと見えるように聞こえる。
ヴィエルネはオルガンだけではない。
彼の多様な才能はもっと知られてもいいと思う。
最初にピアノに出てくる音形がテーマとなり、楽章全体に統一感を持たせる。
スピーディだけれど、チェロは十分に歌い。
色のない闇にに何度も色を塗り替えて闇から縹色に近づく。
明けてくるグルービィな夜空に思いの外優しい風が吹く。
チェロに移る主題は次第に重さを増し、憂鬱の一歩手前で
ピアノが差しだした高音からの優しい手を握り替えして上昇する。
第2楽章はたっぷりとした幅をもった音が求められたとおり、ピアノがその気概をみせ、
チェロの得意の低音の領域とピアノの音量が幅白いバスを作り出す。
ここの歌はフォーレの晩年の夜想曲を聴くようでボクは好きだ。
ただ、紹介するに1楽章ごとの区切りと展開がクッキリとしているので、全曲を通さないと誤解されやすいかも知れンね。
第3楽章 ここも楽章の気概はピアノが切り出す和音によって全体のテンションを決定する。
決然としたピアノの入りからチェロに歌われる主題がソナタのフィナーレらしい雰囲気を作って行く。
時折各楽章の主題が顔を出し、走り去った場所をなつかしげに振り返りながら、闇の中に底だけ明るい色が射した心の居場所を
確認しているように回顧しながら音楽は前に進んで行く。

どの楽章を紹介しようかと迷いつつ、結局第2楽章に惹かれてしまった。


ヴィエルヌ:室内楽作品集(フィリップス四重奏団)[2枚組]

ヴィエルヌ:室内楽作品集(フィリップス四重奏団)[2枚組]

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Timpani
  • 発売日: 2012/12/19
  • メディア: CD






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イングランドの重い風 [音楽]


imagesCA0YP1EQ.jpg
Sir=ヒューバート・パリー/ピアノ協奏曲嬰ヘ長調 


第1楽章 アレグロ マエストーソ [11'52] 
第2楽章 マエストーソ [9'07] 
第3楽章 アレグロ ヴィヴァーチェ  [13'45] 

Pary1.jpg  ヒューバート パリーの作曲家としてのデビュー作になるか。
彼の5曲のシンフォニーは大好きだけど、この作品については彼の中のブラームスが未消化に感じられ、
正直一度聴いたときは、すぐにやめてしまった。
二度目に聴いたときもかなりの忍耐を要した。
三度目くらいで楽章ごとに集中出来るようになった。
そこら辺で今まで聞こえなかったものがやっと聞こえるようになってきた。
クラシックっていうのは、完成が作品にシンクロするまでに暇がかかるものがある。
それは普段読まない小説家の作品に無理矢理興味を向けるのと似ている。
音の力と文字の力の違いはあるが、どちらも普通の人間の表現力ではない。
この作品にはスタイルを確立する前のパリーのあがきのようなものがあって、何処かにスクリャービンが聞こえたり、
ラフマニノフがいたり、リストがいたりする。
ただ、後年の管弦楽の緻密さからすれば驚くほど軽いところがあったりしてめまぐるしい。
第1楽章はフェルディナンド・ヒラーのピアノ協奏曲の主題に似ている。
…と書いてもヒラー自体が全然ポピュラーではないのであんまり意味はないけれど。
弦楽がソロピアノに絡む部分の清冽な抒情は初めて嬰ハ短調のスクリャービンのピアノ協奏曲を聴いたときの淡さがあったけれど、
そっからがこの人の重厚な部分が始まる。
ブラームスの影響と言うよりももう、この頃から彼のオーケストレーションはそれが個性と言えるほどブラームスっぽい。
イギリスの庶民的な旋律に縁取られ、その溶け合いが何処か自然に聞こえてこなかった。
発売されているCDは世界初録音とされていて、作曲家の指定したテンポよりマエストーソの表現に引っ張られているようで、そこが最初の取っ付きを悪くしていた。
何度も聴くうちに、『ああ、やっぱりこの作曲家は好きだなあ』と思ってしまった。
YouTubeではもう、全曲は聴けない。
その時はハイペリオンのCDがそのまんまアップロードされていたから『そりゃあいかんだろう』と思ったものだ。
今回紹介する第2楽章マエストーソが頭と尻尾が切れた形で聴けるだけだ。(工夫したんだねえ。)
それでもこの作品の持つ素晴らしさは伝わる。
イングランドに吹く風は決して軽々と舞い上がることなく、曇り空の草原の葉先を滑るように蛇行しながら英国の果ての断崖を滝のように落ちて行く。
未聴の協奏曲を聴くならまず、聴いておくべき腹の据わった音楽である。
第3楽章もいいねえ。長いけど。この楽章はピアノがオケから数歩抜け出て、活き活きとしたフレーズを跳ねるように駆ける。
管弦楽と混然となる部分の重奏的な構築は堅牢で、ピアノにかなりのタフネスを求める部分だろうと思う。
このピアニストは一連のロマンティック・ピアノ協奏曲シリーズをよく演奏している人だが、この作品にはかなり共感を持っているようだ。
女々しさのないごつい音楽である。



残念ながら今のところCDの在庫は何処にもないようで

The Romantic Piano Concerto Vol 12 - Parry, Stanford / Lane ハイペリオンから出ているシリーズもamazonにもHMVにもありませぬ。タワーレコードにはカタログがありますね。何とかなるかなあ。





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形から入れる凄さ [音楽]

St4.jpg


ローベルト・フォルクマン/弦楽四重奏曲第1番イ短調op.9

第1楽章 ラルゴ-アレグロ ノン トロッポ
第2楽章 アダージオ モルト
第3楽章 プレスト
第4楽章 アレグロ インペトゥオーソ(熱烈な)


Volkmann.jpg   静謐で滑らかな序奏から思索的なフレージングが続く。
ヴィオラの旋律は新鮮。
こういう入り方もあるなと、頭に思い浮かんだのはいくつかの後期のベートーヴェン。
アレグロへの緊張感が音楽を聴くものの予想より少し上に引き上げる。
そこから流れ始めた旋律は意外にもシューベルト的でその主題の歌は、これはこの人のメロディアスな特徴をよく表している。
表現の多様さの中にやはりあまり各楽器の音が滲まないギリギリの距離を保っているだけに音楽はクリアではあるが求心力を弱められている。
もう一歩荒々しさと緊張感と躍動感を高いレベルで発揮出来る個性的なクアルテットであれば(例えば旧ジュリアードとか、ラサールとか、アルバンベルクとか)
そこを乗りきる力を発揮して作品をもっと自在に扱うのではないか。
それでも、この作品の懐は深そうだ。
ベートーヴェンという鋳型を自分流に焼き直した凄みがある。
フォルクマン33歳時の作品であり、ドイツロマン派の作曲家が辿った道をかなりの速度で走り抜けている。
晩年のベートーヴェンが生きた時代は少年フォルクマンの人生に重なる。
圧巻は第2楽章。
15分強を要する。かなり緊張力を求められる散文的楽章。
メヌエットが重さに堪えかねたようにアルカイックな旋律を引きずって行く。

アンサンブルの形はまごうことなきベートーヴェン。ただ、彼はボンの巨匠よりも音に対して開かれた世界をもっている。
音楽の中にある求心力の強靱さは比較にはならない。
ベートーヴェンの音楽は幽かに聞こえる音の再現ではなく、裡にある音楽が苦悩のうちに昇華されたもの。
その形がフォルクマンでは美しく処理されていて研磨されている。
削り出しの心の太さは伝わってこない。
けれど、それは完成されていて意思的なものは拡散しているけれど、創ろうとした音楽の凄みは伝わる。
このアダージオはやがて時を経てもう一度評価される時代が来るのではないかと予感させるものがある。
再現部の前の厳粛な沈黙とテーマのもつメロディアスな呟きは呈示されたときよりも明瞭に耳に残る。
苦労してたどり着いたとはいえないかも知れないが、ベートーヴェン的な緩徐楽章の形をここまで作ることはブラームスでもやらなかった。
第3楽章の緊張感のなさは何なの?
プレストの表記はこんな演奏のために記されたのだとは思われない。
唯美的で息づかいがまるでない。
長大なアダージオを受け損ねたスケルツオ。
第4楽章も新しい靴を水たまりに浸けたくない…そんな感じがする用心深さがあって美しいのだけど、整いすぎていてインペトゥオーソという熱狂はない。
ジジイはこの作品に関してはむしろ演奏者の方に共感出来ない無難が感じられてちょっとじれったい。

全曲演奏があるのみでアダージオは8分59秒から16分31秒まである。

筆が入りすぎたベートーヴェンという感じ。でもそれは演奏から来ている印象もある。
あなたはどう思われるか。

フォルクマン:弦楽四重奏曲 第1番イ短調Op.9/同第4番ホ短調Op.35

フォルクマン:弦楽四重奏曲 第1番イ短調Op.9/同第4番ホ短調Op.35

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: CPO
  • 発売日: 1987/10/01
  • メディア: CD





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ドヴォルザークな気分 [音楽]

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ドヴォルザーク/ピアノ三重奏曲ト短調op.26

第1楽章 アレグロ・モデラート
第2楽章 ラルゴ
第3楽章 スケルツォ:プレスト
第4楽章 フィナーレ:アレグロ ノン タント


Dvorak.jpg

「ブラームスはお好き?」
「ええ。特に秋口から早春にかけてはね。」
「早春の音楽?」
「そういうわけではないけれど、きっちりしたドイツロマン主義の構造の組み方が何だか心の中にダウンジャケットを着込んでいるようなんだけど、脱いだら寒い。」
聴いていると寒くない。」
「それじゃあ、これは?」
「ドヴォルザークね。第1番とか第2番とかブラームスに共感があるね。ブラームスと言うより、ドイツロマン主義への傾倒が顕著だ。」
「じゃあ、同じ断熱効果があるのね。」
「まあね。ただ、彼の個性はやはりボヘミアの土の匂いが旋律に染みこんでいるところかな。」
そこから、彼は出て行くことはなかった。小乗のまま自分の思いをスラヴィックな音楽に込めた。
今ある故郷への思いが永らえたか彼の音楽には横溢した。
例えば、ミュシャが描いたスラブ叙事詩の連作のきっかけを作り出したイルジ・スメタナのような命と民族の血の鼓舞は彼の音楽にはない。
美しくロマンティックでエキゾティックだけれど、彼が守ろうとしたのは故郷の音楽であり、シベリウスやスメタナの音楽がもっているアジテーションはない。
「尤も、それを音楽に求めているわけではないよ、ボクは。」
だから、この第2番はドイツロマン的音楽としてとても美しくて何度も耳にしたくなる。
第1楽章のテーマはシベリウスの音楽に似てるね。フロレスタンのモデラート。
ブラームスの音楽にある焚き火に近づきすぎて顔が痛くなるような音感覚よりもっと変化に富んでいてやはりメロディアス。
素晴らしい作品だと思う。
ピアノの絡み方がいい。位置的なウエイトはモーツァルト的。
ピアノが頑張るとこの曲は一段と映える。
協奏的な魅力が横溢する。
以前ボクはよほど退屈な演奏でこの曲を聴いていたのだろうか、あまりいい印象はなかった。
今、同じ本を何度も読み返し、ある日ふと新しい読み方を思いついたような気がする。
ノスタルジックな晩年の作風から才能の横溢する確固たる形式。
しかしその中にゲルマンの仄暗いロマンティシズムとは相容れぬ、血の中に流れるメロディアスな息づかい。
ドイツロマン主義から眺めるとそれは特異で、個性的な音楽とも取れるだろうけれど、ドヴォルザーク自身はまだ故国を意識することもなく自身の情熱に素直に従っているに過ぎない。
ピアノをチェロとヴァイオリンが両側から挟み込みながら抜け出ようとするピアノパートの上昇に何処までも付いて行く。
第2楽章は走りすぎて乱れた息を整えようとするかのようにチェロは歌謡的な旋律を奏で、ピアノへヴァイオリンへと移りながら分解されて行く。
こぼれてくる抒情をチェロが掬い取る。
内省に深く沈むのではなく、あくまでも歌いながらチェロはピアノと対峙する。
静謐の中にヴァイオリンの音色が白紙の上に薄墨を掃いて行くように強打するピアノをコントロールしながらチェロに位置を示す。
とても変化に富んでいて音楽的。
第3楽章はドヴォルザークのスケルツォ。
最もスラヴ的な色彩がチャルダッシュのような旋律の中で踊る。
彼の交響曲代8番で聴くような個性的なスケルツォ。
フィナーレはピアノとヴァイオリンの下げ弓にピアノが合わせる。
ニュアンスが豊かに協奏されるヴァイオリンとピアノの掛け合いにゆっくりと幅の厚いチェロの単純な旋律が巻き付いて行く。
幾度かわずかずつ形を変えながらも、次第に終景の形が明確になり、そこに向かって3つの楽器が位置を変えながら溶け合って行く。
聴き終えると、ブラームスのような満腹感とも異なる、峻烈なロマンティシズムが耳に残る。
ドヴォルザークな気分である。
色々聴いたという気分ははっきりと残るのだけど、あの地味なブラームスのように旋律が口癖のように鼻歌になることはない。
その辺が的確で早いジャブだけで勝ってしまったボクサーみたいな印象を受ける。

どの楽章も一様に面白く奇麗。
第1楽章が気になるね。シベリウスをどうしても思い出すんだけど…

Dvorak;Piano Trios 1 & 2

Dvorak;Piano Trios 1 & 2

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Supraphon
  • 発売日: 1998/05/19
  • メディア: CD

Piano Trios 2 & 4

Piano Trios 2 & 4

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Elektra / Wea
  • 発売日: 1992/01/14
  • メディア: CD

Dvorak: Piano Trios

Dvorak: Piano Trios

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: warner Teldec apex
  • 発売日: 2001/05/14
  • メディア: CD

ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第1番&第2番

ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第1番&第2番

  • アーティスト: スーク・トリオ,ドヴォルザーク
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2008/12/17
  • メディア: CD






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ソナタのお茶漬け [音楽]

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ローベルト・フォルクマン


                             ピアノ・ソナタハ短調作品12

ドイツロマン主義の完熟の時。

今さらながらに彼がピアノ・ソナタの分野で新境地を切り開くような余地はなかったに違いない。
ピアノ三重奏曲第2番の成功の余勢を駆ってウイーンに乗り出す1年前に作曲されている。
ピアノソナタはこの作品ただ一曲のみ。
ただ、そこにはリストのような破天荒でデモーニッシュなテクニックの上に異質でありながら典型として屹立する偉容があるわけではない。
ブラームスの晦渋とも思える重ね着のロマンティシズムに涼しい顔をして付いて行く厚顔があるわけでもない。
シューマンの物狂おしさと心の嵐が寂寥と同居した一瞬の哀切があるわけでもない。
彼のピアノ・ソナタのスタイルはわずか14分程度の作品を律儀に4楽章で構成し、迷った風でもなく、メンデルスゾーンが意識したベートーヴェンが深い内省を覗かせるような闇もない。
それでも何故かこの人の作品は、憑かれたような真摯さに満ちている。
第1楽章 モデラート・カンタービレ
メンデルスゾーン。
それもお姉さんのファニー・ヘンゼルのような華奢を隣で酔っぱらったショパンが口説いているような…
一途なロマンティシズムに完徹されている。
意外と好きだなあ。こういうの。

第2楽章 プレスティッシモ 変イ長調
スケルツオ的に置かれてはいるが舞踏的な規則性よりもエチュードを聴いているような潔癖感がある。

第3楽章 アンダンテ・ペザンテ
座り直したように、狭いけれど深く届いてくる。
だけど、このソナタの核になるような求心力は感じられない。演奏は少なくても、頑張っているんだけど。

最終楽章のアレグロ・モルト。
一気呵成。こういう一直線はかなり力業だけれど、技術的なバランスがよくて聴き惚れる数瞬がある。
最近、一度聴いて記事にしようと思ったものはあまりない。
二度三度と聞いている間に聞こえてこなかったものが聞こえてくる。
それがボクの耳から頭の何処かに重なって音楽がリアルな厚みをもって響くことに繋がる。
でもこの曲は一度聴いたきりである。
まだ、もう少し時間をかけた方が自分の言葉になるかと思うけれど、とてもわかりやすい音楽だから、あんまり印象が変化することもないかなとも思っている。

14分程度の曲だけど、第1楽章だけでも聴いてみる?

 






Piano Music

Piano Music

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Hungaroton
  • 発売日: 2005/09/05
  • メディア: CD

 





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完熟のVcソナタ [音楽]

ViolinCello.jpg 

エネスク/チェロ・ソナタ第2番ハ長調 Op.26

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第1楽章 アレグロ モデラート エド アマービレ(愛らしく)
第2楽章 アレグロ アジタート,ノン トロッポ モッソ(躍動して)12:13
第3楽章 アンダンティーノ カンタービレ,センツァ レンテッツァ(遅くなく)20:05
第4楽章 ファイナル ア ラ ロマーニエ;アレグロ ショルト(自由なアレグロ)27:31

1935年のエネスクは第2次大戦後の停滞期にあったのだろうか、並行して書いていたと思われるヴァイオリンとオーケストラのための協奏交響曲ハ長調は草稿のみに終わり、1年前に着手している交響曲第4番は未完のままである。
同時期の作品としては1933年のピアノソナタ第3番とこの第2チェロソナタくらいだ。
この頃から次第に懐古的な作風になって行くのだけれど、それはただ抒情に流れてゆくというのではなくて、ヴァイオリンソナタ第3番から10年を経て完全に安定した作風が予定調和を生んでいる。
ここには第1番に聴かれるような若いエネルギッシュな生命感はないが、滔々と流れながらも、胸底にしっかり握り込んでいる祖国の色が塗り込められている。
第1楽章のチェロの愁いのある歌は、意味を探す必要もなく音楽的で美しい。
その歌の間隙に添って凹凸を埋めてゆくピアノがまたいい。
決して協調しているのではなく、チェロの作り出す歌の周りをゆっくりと回っている。
そして、その音が止まりピチカートに誘い出されるように微妙に主客が変わる。
チェロとピアノの螺旋は次第に強まってくる心の圧力に外側に開くように高まってゆく。
それが実にボクには自然に感じられ、そこから不意に冒頭の主題が覗く気配に(愛らしさ)などは感じないけれど、臈長けた音楽家の渾身を聴く。
第2楽章は仄暗いダンス。
チェロにふさわしいと言うより、チェロだからできる腰の低いアタックが扇情的。
息を整えるような緩の部分。
低く形を変えた、やはり主題が覗く。
ピアノの音の間が澄んでいて美しい。(YouTubeの録音はここにソースの盤面に疵でもあったのか雑音が入っている。)
次のアンダンティーノ・カンタービレは20世紀に書かれた音楽の中でも群を抜いて気高く、美しいチェロの序奏から始まる。
ピアノは柔らかな残響の中にふわりと浮き上がってくるチェロの歌と交替するように、イメージの水面からゆっくりと沈んでは浮かぶ。
独奏と独奏が細い糸で繋がるように穏やかに緩やかに呼吸するように閉じる。
この楽章はしかし、決して単独では聴けない類の音楽だと思う。
第4楽章は、その穏やかさの典型の音楽に続いて徐々に高まってゆく民族的情熱が熟達に極みに達している。
チェロが肉体の躍動であり、ピアノはその肉体を巡る血の管の中を趨る命のように交わることなく溶け合う。
弦が強く弾かれ、ピアノの音が指先から高く弾け上がる。
とても複雑でルーマニアの歌は別次元の成熟を遂げてゆく。

YouTubeのソースはここでもおそらく、CDの表面に付いた傷のために遮られる。
だけど、残念ながらこのソース、ボクにはこの作品に合っているように思う。
そして、この作品を全曲紹介してもチャレンジする方はあまりいないのであろうと思いつつもそうせずにはいられない。
各楽章に打っている時間はその楽章の始まりを示しており、YouTubeのものをそのまま転記しています。
ソースの疵による雑音は悲しいですが、全ての楽章が魅力的です。

お時間のない方はせめて第3楽章の最初のチェロの独奏を



1Satz 00:00
2Satz12:13
3Satz20:05
4Satz27:31

ジョルジュ・エネスコ : チェロ作品全集 (Enescu : Complete Works for Cello and Piano / Valentin Radutiu | cello , Per Rundberg | piano) (2CD) [輸入盤]

ジョルジュ・エネスコ : チェロ作品全集 (Enescu : Complete Works for Cello and Piano / Valentin Radutiu | cello , Per Rundberg | piano) (2CD) [輸入盤]

  • アーティスト: ジョルジュ・エネスコ,ファレンティン・ラドゥティウ (Vc),ペル・ルンドベルク (Pf)
  • 出版社/メーカー: Hanssler Classic
  • 発売日: 2013/10/20
  • メディア: CD

Enescu: Sonata Cello & Piano

Enescu: Sonata Cello & Piano

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Ebs
  • メディア: CD

Enescu: Piano & Cello Sonatas

Enescu: Piano & Cello Sonatas

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Talent
  • 発売日: 2002/06/03
  • メディア: CD

Enescu;Cello Sonatas

Enescu;Cello Sonatas

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Arte Nova Records
  • 発売日: 1999/01/29
  • メディア: CD

Enescu:Cello Sonata

Enescu:Cello Sonata

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Marco Polo
  • メディア: CD

Cello Sonatas 1 & 2

Cello Sonatas 1 & 2(ふざけたジャケットだけど音楽の質は高い。たしかミャスコフスキーの時もこんなだったなあ)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Arte Nova Classics
  • 発売日: 2007/09/04
  • メディア: CD





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