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フォークソング賛歌 [音楽]

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 サー=チャールズ・スタンフォード/クラリネット協奏曲イ短調op.80

第1楽章 アレグロ モデラート
第2楽章 アンダンテ コンモート-マ ピゥ トランクイロ
第3楽章 アレグロ モデラート

Stanford.jpg

1902年の作曲である。
古風というわけでもない。
ウェーバーの作品のように技術を披見することに専心するのでもないが、確かに闊達に書かれたカデンツァを聴くと技術的な見せ場をいくつか持っているようだ。
手元にあるのはJ.ヒルトンのクラリネット。アルスター管弦楽団とある。北アイルランドの唯一のプロオケである。
もう一枚はオケがBBC交響楽団でオーケストラの共感と作品への敬意が厚いシンフォニックなフォーマットがすばらしい。
こういうところはイギリスの作曲家であり、楽団であるなと感じる。クラリネットはM.コリンズ。
スタンフォードは勇壮な音楽を書かせたらなかなか聴き応えがある。
厚みのある管弦楽法を駆使し、実にきっちりしたものを書く。
でも、ボクにとって彼の魅力はどこかに鄙びた藁の匂いのする音楽をさりげなく聴かせてくれるところにある。
このクラリネット協奏曲でもその魅力は第2楽章のテーマによく顕れている。
日向の温かい風を受け、刈りたての乾いた藁の上に寝転がって夕暮れを待っているような、どこかで聴いたように馴染みのある旋律が弦楽のトレモロの中でホルンからクラリネットに移ってゆく気分は清々しい。
民謡の持つ広々とした空気感と生活感を昇華しすぎず、
讃えるように敬意を払っている。
思い出したようにテクニカルになったりするのは多分作曲がプロの演奏家の依頼によっていることからやむを得ないのだろうけど。
繰り返し独奏し、合奏される旋律は演奏者がどこまで遠く行ってしまっても
母親のように穏やかに迎えてくれている。

YouTubeにはいくつかのライブがあったが、ジャネット・ヒルトンが演奏したCDのものを見つけた。
ちょっと残念なことに終結部が切れている。
でも、響きは薄いけれど、北アイルランドのオーケストラは作曲家の呼吸を心得ている。

Clarinet Concerto Op 80 / Clarinet Concerto Op 31

Clarinet Concerto Op 80 / Clarinet Concerto Op 31

  • アーティスト: Charles Villiers Stanford,Gerald Finzi,Alun Francis
  • 出版社/メーカー: Hyperion UK
  • 発売日: 2001/07/10
  • メディア: CD






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抒情と屈折と霊感と [音楽]

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ショスタコーヴィチ/チェロ・ソナタニ短調 op.40

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ
第2楽章 アレグロ
第3楽章 ラルゴ
第4楽章 アレグロ

Schostako.jpg 国家的批判による社会主義リアリズムに宣誓したような音楽から抜け、実験的な作風もこなれ、リズムに完全な個性が浸透するまでのわずかな息継ぎがこのような作品を作らせたのか。
それにしても意外なほどの豊かな歌の中に、ただの思い付きではない実験が作品の要素となっているあたりはさすがのしたたかさ。
第1楽章の冒頭から始まる優しき旋律はショスタコーヴィチのささくれ立ったリズムからは程遠い。
聴くたびに複雑で深くなってくる暗さと重さを拭ってフレッシュな感覚でもう一度もう二度と聴くには骨が折れる。
20世紀のチェリストたちは、『これだ!』思うだろうね。
第2楽章の切れの良いリズム感とピアノの乗り、そしてギターで聴いたことがあるけれど、ヴァイオリンの眷属ではちょっと耳慣れないナチュラル・フラジオレット(もともとは管楽器の奏法らしい、詳しくは知らないが左の指先で強く弦を押さえ込まないで普通のヒステリックな高音よりももっと柔らかなで奇妙な音色を生む)のグリッサンド。
どこだって?
およそ聴きなれない音がしているから誰が聴いてもはっきりわかる。
ただ明確でインパクトのある音色を出すにはかなり大きな手と指先の均一な圧力が必要な奏法らしい。
それでも、初めて聴いたときは『なんだこりゃあ!?』と思った。学生のころだったけど。
第1楽章と第3楽章の旋律をつなぐすばらしい楔である。

ほの暗い第3楽章の気分。
ピアノの重い点描が悲しみをようやくほぐし、もう一度肺いっぱいのたまった空気を吐き出し、顔を上げようとした刹那の、そのうつろな肺腑を衝く。
チェロという楽器のうつむいたままの音色がため息のようなピアノに滲んで同化する。
終結部にいたるピアノが主導する悲歌は古臭くなく、過度に鋭くもなく、20世紀の感性で書かれた美しいため息。

当時、先鋭的に映った作品もジジイになった今聴き直すとこんなに歌っていい のかと思うほど旋律的である。第4楽章はまさしくショスタコ節。
皮肉とパロディに満ちた軽快さの中に「ウーソぴょん」とか言ってすべてをひっくり返すような唯我独尊あらためて聴きなおしても、20世紀のチェロ・ソナタとして記憶すべき傑作でしょうね。

ショスタコーヴィチ&ラフマニノフ:チェロ・ソナタ集(Rachmaninoff & Shostakovich: The Sonatas)

ショスタコーヴィチ&ラフマニノフ:チェロ・ソナタ集(Rachmaninoff & Shostakovich: The Sonatas)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Newton Classics
  • 発売日: 2012/12/19
  • メディア: CD

ショスタコーヴィチ: チェロ・ソナタ、ヴィオラ・ソナタ (Chostakovitch : Violas sonats / Pierre Lenert (Alto), Eliane Reyes (Piano)) [輸入盤]

ショスタコーヴィチ: チェロ・ソナタ、ヴィオラ・ソナタ (Chostakovitch : Violas sonats / Pierre Lenert (Alto), Eliane Reyes (Piano)) [輸入盤]

  • アーティスト: ショスタコーヴィチ,ピエール・レネール(Va),エリアンヌ・レイエ(Pf)
  • 出版社/メーカー: INTEGRAL
  • 発売日: 2012/07/30
  • メディア: CD

ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ/ヴァイオリン・ソナタ

ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ/ヴァイオリン・ソナタ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Naxos
  • 発売日: 2006/11/01
  • メディア: CD

ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ;チェロ・ソナタOp.40 他 (Chostakovitch: Cello Sonatas)

ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ;チェロ・ソナタOp.40 他 (Chostakovitch: Cello Sonatas)

  • アーティスト: Dmitry Shostakovich,Sergey Prokofiev
  • 出版社/メーカー: Naive
  • 発売日: 2002/04/26
  • メディア: CD

作曲家の肖像

作曲家の肖像

  • アーティスト: ロストロポービッチ(ムスティスラフ),ショスタコーヴィチ,カバレフスキー,K.S.ハチャトゥリャン,ショスタコーヴィチ(ドミトリー),カバレフスキー(ドミトリー),ハチャトゥリャン(カレン)
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1997/04/28
  • メディア: CD







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凡の駿 [音楽]

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ナディア・ブーランジェ/チェロとピアノのための3つの小品

第1曲 モデレ 節度をもって
第2曲 急がず、うれしさをもって。
第3曲 速いリズムで細かく

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あまりにも多くの優れた音楽家を輩出していて、自身の作品についてはほとんどが手付かずの状態であり、また生来の自己批判の厳しさから、ボクが聴くことのできる作品は凄く少ない。
印象主義的な一面を持ちながら無調に傾斜することなく、調性的な音楽作りに終始した。
彼女自身は、自身よりもはるかに偉大な才能に溢れていたが病弱であった妹リリ・ブーランジェから一歩引いた音楽人生を送った。
作曲家としては。
自分の才能が妹にはるかに及ばないことを知悉し、妹を支えて生きた。
しかし、それは音楽教師としての彼女が20世紀に果たした偉大な足跡に影を落とすものではない。
キース・ジャレット、フランシス・シャグラン、ディヌ・リパッティ、ヤン・トルトゥリエ、ジネット・ヌヴー、イーゴリ・マルケヴィチ、ミシェル・ルグラン、矢代昭雄…多士済々
天は二物を与えないのかね。
妹リリのピアノとヴァイオリンのための夜想曲の複雑でイマジネーションに溢れ音楽なんかと比べると、とても地味である。
でも、そこには明滅する霊感を懸命に拾い上げ、ソナタのように纏めようとしたこの作品のまだ完成が少し先にあるようなたたずまいが彼女の心根を顕している。
ドビュッシーが聴こえそうだけれど、ここには女性の細やかな感性がチェロの恰幅に支えられている。
遠くを見据えている口元に微笑をたたえていることに本人は気づいたろうか。

In Memoriam Lili Boulanger

In Memoriam Lili Boulanger

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Marco Polo
  • 発売日: 1997/11/25
  • メディア: CD

Soirees Internationales

Soirees Internationales

  • アーティスト: Bohuslav Martinu,Heitor Villa-Lobos,Mozart Camargo Guarnieri,Nadia Boulanger,Celina Szrvinsk
  • 出版社/メーカー: Avie
  • 発売日: 2008/11/25
  • メディア: CD


 




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20世紀の古曲 [音楽]

[晴れ] 20日から準備に入った夏祭りもようやく終了。祭りが始まるまではスタッフもテンションが上がり、作業参加のボランティアも多いが、土曜の夜花火の打ち上げが終わり、テントをたたみ通行止めの町道を開放し、翌朝からの後片付けを準備して10時過ぎに帰宅。その後片付けの日曜からは祭りに向かう高揚感はなくてスタッフも少なく、これが一番大変ですわ。
全作業が終わり始めて祭りが終わる。本日しばらくぶりのお休みで、ようやくブログを更新。お久しぶりです。[わーい(嬉しい顔)]

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Sir=ウィリアム・ウォルトン/ヴァイオリン・ソナタ(1949)

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 すべてが美しいとはいえないけれど、惹かれる曲がある。
ヴァイオリンのどこかに身を潜めている爆発寸前のテンションの高さがボクは苦手でこの楽器についてあまり良い聴き手ではない。
それでも、この音楽は美しいと思う。
これはヴァイオリン・ソナタではなく、ヴァイオリンとピアノ二重奏曲といったほうがいい。
いくつかCDが出ているはずだけど、YouTubeで聴けるのはこの演奏だけ。
イ短調という調性で表記されているが、調性には拘泥していないように聞こえる。
20世紀の音楽の調性を記す際のどっちつかずの特徴ともいえなくはない。
第1楽章のアレグロ・トランクィロが比較的ゆったりとしたバランスで演奏されていてピアノのパートのすばらしさが良くわかる。
第2楽章の変奏曲のテーマの提示が似たようなテンポで、表現の幅が詰まりそうなものだけれど、ピアノのジャージィな呼吸がうまく息を継いで行く。
とてもエレガンスな表現が作品の持つ雰囲気に合っている。
20世紀になってもイギリスのこの作品は
もっとも優れたワインの飲み手であった国民性の中に醸成されたドイツ音楽の芳香をその優れた芸術鑑賞力の中で消化し、深い感受性の中に蘇生させている。
決して固有の個性の輝きには乏しくても、すばらしい演奏と聴衆の融和を生み出す素地を確立してゆく。
フォーレの室内楽の最上のピアノパートを聴いているような第1楽章の協奏はちょっと忘れていた清新さを思い出させてくれた。
尖った部分のないとても完成度の高い作品ですね。
大変気に入っております。はい。


ライブ演奏の前に第1楽章のテーマと演奏者の作品に対するコメントが入っておりますが気にせずお聴きくだされ。
全2楽章の作品ですが、演奏者によってかなり時間に差があります。
この演奏は少しゆっくりしてる。でも、遅いと思わない。







Elgar/Walton: The Sonatas for Violin and Piano

Elgar/Walton: The Sonatas for Violin and Piano

  • アーティスト: Edward Elgar,Gerald Finzi,William Walton,Simon Mulligan
  • 出版社/メーカー: Nimbus Records
  • 発売日: 2001/03/06
  • メディア: CD

British Violin Sonatas Vol. 1

British Violin Sonatas Vol. 1

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Chandos
  • 発売日: 2013/06/25
  • メディア: CD


Elgar/Walton;Violin Sonatas

Elgar/Walton;Violin Sonatas

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Asv Living Era
  • 発売日: 1996/10/15
  • メディア: CD

Chamber Music-Violin Sonata Piano Quartet Anon in

Chamber Music-Violin Sonata Piano Quartet Anon in

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Hyperion UK
  • 発売日: 2002/10/08
  • メディア: CD










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未聴の遺産 [音楽]

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ジョルジュ・エネスク/ピアノ三重奏曲第1番 ト短調 

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第1楽章 アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ
第2楽章 アレグレット グラティオーソ
第3楽章 アンダンテ
第4楽章 プレスト

非常に残念なことに聴き込んでいて惚れぼれしている間に第1楽章から第4楽章まであったデータが削除されていた。
この作品のカタログは作品のすばらしさに比してなんとも腹立たしいくらい稀少である。
このトリオ・ブランクーシという3人のお嬢さんがたの演奏はブラームスもシューマンもすばらしかったし、ライブのこの曲の演奏もすばらしかった。
CDは出ていて。多分YouTubeのソースはそれだったんだろうし、この演奏も同じものだろうね。
入っていないのは各楽章が始まる前にある拍手。
演奏ではそれが煩わしかったのだけど、このソースはそこをカットしているようだ。
もっとも、このト短調はもともと作品のカタログにある20世紀に入ってからのイ短調の3楽章のトリオとは別物で、つい最近発見された楽譜によるものらしい。
作曲年代は19世紀末(1898年)である。
彼は作品を自分の頭の中にしまっていて楽譜にしていないものが幾つもあり、実際に作曲しているということがピアノ等で演奏されるのを多くの人が聴いていて、その存在が確実視されていながら、彼の死と共に失われてきたという。
ピアノソナタ第2番などもそういう位置づけである。
彼の死によって誰も聞くことができないが、存在したのである。
このト短調のトリオは運の良いことに楽譜になっていた。
後期ドイツロマン派のフィールドに両足をしっかり踏ん張っているが、不意に浮き上がる旋律には民族的な憂いがこめられていて、明快な作品である。
ブラームス的であり、しかも良く整理されていて美しく、かの時代の作曲家諸氏の作品と比べても遜色ない。
ここで紹介するトリオ・ブランクーシの紹介ビデオではこの第1楽章が聴ける。
第2楽章にはアレグレットの速度表記があるがメヌエットである。優雅で舞曲の気品と中間部の憂いの粘らない適度なロマンティシズムが作曲家の音楽的な総合力を見せ付ける。
第3楽章のアンダンテはピアノが主導し、緩やかで優しい古典的な主題を聴かせる。その後に入るヴァイオリンとチェロの美しいさ!短いけれど、自然に響いてくる弦楽とピアノの絶妙な距離感が本当にきれいです。
第4楽章はさまざまな要素が聴かれるけれど、ここまで来ると技術的な達成度が生半可ではなくて、音の重なりがとてもブラームスっぽいけれど、個々の弦楽器とピアノのすべてに傑出した才能を持っていたエネスクの音楽の質の高いエンターテイメントが聴けます。
何でこんなにチェロのパートが繊細なのにピアノとヴァイオリンに埋もれないのだろうか。
中間部のフーガの処理はそれ自体を中心に据えているのではなく、あくまでも歌の中の流れに乗っている。

この作品は今のところブランクーシのCDのみでしか聴けないらしい。
YouTubeですべての楽章が聴けなくなった今、その片鱗を第1楽章でちょっと聴いてください。

Trios

Trios

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Zig Zag Territories
  • 発売日: 2012/03/26
  • メディア: CD





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感性の普遍 [音楽]

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止みきらぬ雨粒がまだ湿ったままの石畳にはねる。
音空間に注ぐピアノの音はそんな風に方向性を持っていて
主題を引き継いでゆく弦楽のアンサンブルがとても絵画的に動く。
優美で涼やかな雨上がり。
情景的な音楽です。
ダンディの音楽は室内楽のいくつかとフランス山人の歌による交響曲くらいしかなじみがない。
ギョーム・ルクーの第2の師であることは承知しているけれど、作曲家としての個性はいまひとつはっきりしなかった。
何度かこのアンサンブルを聴きなおしていて 変容していったフランス音楽の中の『印象派』の意味と戯れた。
もともと絵画の『印象派』の語が使用されたのは、音楽の全体像が核がなく滲んでいて光の当たり方を定めない例えばルノワールの絵画のよう、につかみどころのない抒情を揶揄したものだったと理解されている。
でも、そこには音楽的な霊感にいたるヒントが溢れ返っていて『それだ!』と感じ取った音楽家がたくさんいたのだろう。
無調と不協和音に進む音楽が『試みの音楽』として芸術的可能性を追求し、大多数の聴衆を置き去りにしかねない危機感と憂いを鋭い感性で回避し人間の本性が持っている抒情への本能的な回帰を目指す。
感性に触れる音楽。
1+1=2ではなく、2=∞の方向性。
音楽評論家諸氏の固定的評価を拒む価値観。
音楽は進化したか?
それを聞くものの圧倒的多数の望みどおり深化したか?
近代的叙情性や現代的それのすぐ隣にボクは大バッハの明晰で断固とした人間の感性へのゆるぎない確信を聴いてしまう。
2=∞の中にそれは穏やかに聞くものの肌を粟立てる。
たとえば『愛』という文字の背後にはそれを捉えている視覚をもつ個々の人間の経験や文化の集約があり、『愛』という言葉のその集約された感性を伝え、共鳴させるために演劇は役者の声、マイム、音楽、物語さまざまな要素で提示する。
音楽自体もまた聴覚に対し、ある瞬間は絵画的にある瞬間は体験的にあるいは、もっと本能的で原始的な感情に共鳴させる。
理解するということは『理解』という言葉によって掬い上げている成果の多くをその指の間から零しているのではないか。
『理解するけれど、嫌いだ』という評価はその人の感性が最終的に知的な作業の埒外にあることを示している。
表現力に限界があるね。うまくいえない。

ヴァンサン・ダンディ/ピアノ五重奏曲ト短調op.81

第1楽章 アッセ・アニメ 
第2楽章 アッセ・アニメ
第3楽章 レント・エ・エクスプレッシフ
第4楽章 モデレメンテ アニメ

第1楽章をYouTubで

D'indy: Piano Quintet Op.81

D'indy: Piano Quintet Op.81

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Marco Polo
  • 発売日: 1995/10/24
  • メディア: CD


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帰るところ [音楽]

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モーツァルト/ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調 K.282

第1楽章 アダージオ
第2楽章 メヌエットⅠ-Ⅱ
第3楽章 アレグロ

Gulda.jpg

近代から現代の音楽を聴き続けていると、ひとつのフレーズに込められる言葉の密度に飽食する。
重いロマンティシズムや浮遊する魂の揺れに同化していると突然ここに帰りたくなることがある。
いわゆる『デュルニッツ』の求めに応じて作曲された6連作ソナタの4番目。
モーツアルトはこの6曲を別個に仕上げたのではなく、1番から同じ楽譜に自筆で連作している。
6曲を一気呵成に仕上げているのである。
19歳の天才はフォルテピアノの黎明期に絶妙の形で降りてきた。
6曲ならどれでもいいんだけど、ボクは特にこのK282の第1楽章が好きだね。
まだソナタの形式になっていなくてモーツァルトの全ソナタの中でアダージオから始まるのは11番とこの第4番だけ。
モーツァルトのピアノソナタはこの2曲以外どれも第1楽章で走り込んで第2楽章で深呼吸する。
この作品は1音の響きに感応して心が空に向かって開いてゆくようにシンプルな線が弾かれてゆく。
今そこから産まれたように弾かなければならない。
単純さを掌で掬い取って愛おしむように目の前に持ってきたときはもう指の間から生きた音楽はすり抜けていて
掌には『緩』が慎重と結びついて淀んで残っているだけだ。
失礼な話だけれど、この楽章はプロのピアニストよりも子供の弾くピアノに心を奪われることが何度もあった。
同じ感覚をいつもではないけれど、よく受けることがあるのはグルダの演奏だった。
今、できたばかりのモーツァルト。
まったく!
このシンプルさの中に表現の美しさと音の息づかいがピアニストの指を完全に離れきって響いてゆく。


目を閉じて第1楽章を



Complete Mozart Tapes

Complete Mozart Tapes

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Universal Import
  • 発売日: 2009/10/01
  • メディア: CD
Piano Works

Piano Works

  • アーティスト: Wolfgang Amadeus Mozart,Friedrich Gulda
  • 出版社/メーカー: Dg Imports
  • 発売日: 2006/01/19
  • メディア: CD





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夢みるフーガ [音楽]

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エネスク/前奏曲とフーガハ長調(1903年)

ルーマニア狂詩曲の翌年。
まだロマン派の席に暖かい温もりを残したままこの作品を仕上げている。
極めてシンプルに構成されたプレリュードの繰り返される短い動機の中に磨き込まれた純度の高い詩情が薫る。
手のひらを全て広げて見せたようなピュアな反復の昇降の中に、打ち込まれる付点はその度に命が蘇るように音楽に天を向かせる。
何処にでもありそうな形でありながら、その偽りのない純粋に立ったまま降り注ぐ熱のない白光を仰いだ顔全面に受けて目を閉じているような、背中に羽でも生えてくるのではないかと思うほど無垢である。遙か高みからゆっくりと落ちる羽のように音達は螺旋を描きながら徐々に強く耳に届く。
そして同じ速度で命の温度に触れて元の場所まで舞い上がって行く。
フーガに至る鼓動が緩やかに動から静に変わりゆっくりと眠りに落ちて行くように消えて行くまでそれは石蕗の滑らかな葉に丸く残った水滴のように心にあり続ける。
そしてフーガもまたシンプルな要素が反復しながら組み合わせをわずかずつ変化させ、声部の交換も単純化されている。
2つの前奏曲が繋がったように聞こえる。ゆったりと対位する音楽は高ぶることなく、同じ高さを並行して浮かびながらも決して倦まない。
心と指のバランスが最良の演奏を生む。
時間の螺旋を感じながら純粋に、この曲に向かい合う人は水面の月を崩さずに手のひらにすくい取ることができる。
こういう曲に出会うと、自分の書斎にあるもう長く蓋を開けていないピアノをため息混じりに見てしまうね。





Two Pianos Sonatas (Hybr)

Two Pianos Sonatas (Hybr)

  • アーティスト: George Enescu,Luiza Borac
  • 出版社/メーカー: Avie
  • 発売日: 2006/04/04
  • メディア: CD

Enesco-Oeuvres Pour Piano

Enesco-Oeuvres Pour Piano

  • アーティスト: George Enescu,Cristian Petrescu,Mirabela Dina
  • 出版社/メーカー: Musidisc
  • 発売日: 2004/11/08
  • メディア: CD

 




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身体に合ってない? [音楽]


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 アーン/ 最初のワルツ集 (1898)

序奏 ワルツへの誘い0:53

1. 優雅さをもって 1:30
2.アレグレット・コン・モト1:37
3.「ニネット」非常に非常に早く0:47
4. 動きをもって1:14
5. 速すぎず、シンプルに(ショパンの夢想的な影に)2:01
6. 十分速く1:39
7. 「子守歌」モデレ1:40
8.速すぎず2:18
9. 「木の葉」少し弱々しく2:10
10. 堅苦しくなく ボードレールの詩によるインスピレーション3:37


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ワルツ!
ボクの血の中の薄い部分の最も薄いところ。
ワルツという舞曲の優雅さ。
ワルツが代表する舞曲としての側面は”戦争と平和やその時代の、つまりフランス語が高尚な言語として貴族の間で使われていた帝政ロシアの時代。
その頃の映像や文字の中で浮かんだ空想がボクの中で固定観念になっている。
いわゆる『知恵の悲しみ』っていうやつ。
ブラームスの四手のための舞曲集やラフマニノフやショパンや様々な作曲家がサラリと書いて弾き流す。
『理解』という生理的な緊張に最もそぐわない人と音の無限の協調。
日本人の血の中には仮の経験でしかないものの典型。
大きく踏み出される男性のステップに小さな女性のステップが回りながら寄り添ってゆく。
ボクの頭の中にはこの舞曲(円舞曲という邦名もよくないのかね。)の公式がひとつしかない。
つまり
1+1=2でしかなくて 
2=1+1や2=1.5+0.5や2=3-1のような無限性がない。
素晴らしい演奏に触れることはある。何度もある。
それを通じてそのワルツの素晴らしさを知ることはある。
でも、それは決して舞曲としてのワルツを理解しているからではないことをボクは知っている。
素晴らしいと思った音楽がワルツの形であると音楽とは関係無しにボクに入ってくる。
いやあ、理屈っぽいなぁ。
アーンのワルツはどうかなと、期待はしたわけではないけれど、わりとすんなり耳に入ってきた。
この場合、演奏の質が例えばラフマニノフが弾いたショパンのワルツとかどちらかというと演奏に耳を奪われたような時間ではなかった。

ワルツ第1集ということだが第2集があったかどうか知らない。
ボクの手持ちのCDには入っていない。
10曲。インヴィテイションを入れれば11曲か。
最も特徴的で素直に耳にはいるのは第8曲
これは歌だね。その場で歌詞を付けて歌えそうな音楽。
少年レイナルドの時代はサロンで師匠のマスネやフォーレなんかの歌曲を弾き語りしていたらしく、ピアノを弾きながらの歌はお手の物だった。
心が浮き立つような音楽でした。昔からワルツ調の歌っていうのは『ナンとかワルツい』とか歌謡曲だってたくさんあるものだけど、それをワルツと意識したことはない。
でもこの曲は、ああこういうものなんだと思わせてくれるようなものでした。
第5曲は音楽として面白いかなと。ショパンというより、ボクにはサティのように聞こえた。
最初のワルツへの誘いという部分からページをめくってゆくような作り方で少しくつろいだ。
YouTubeにはこんな音楽もあるのですね。

2014031420540000.jpg 

アーン:ピアノ曲集

アーン:ピアノ曲集

  • アーティスト: ファヴル=カーン(ロール),アーン
  • 出版社/メーカー: キング・インターナショナル
  • 発売日: 2005/03/24
  • メディア: CD





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浅い夜夢 [音楽]

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エネスク/フォーレへのオマージュ 1994

とても短い夢。

夜想曲と題されたわけではないけれど、晩年を迎え、作風の角が取れ、研かれたリリシズムが作品を浅い夜の色に染める。
音の言葉は少ないけれど、1音1音のニュアンスをギリギリまで軽く扱いながら夜の濃紺の中に薄く伸ばしてゆく。
刷毛の趨る方向に仄白い無数の感情の襞の残像がゆっくりとたち顕れて滲みながら消えてゆく。
ピアニストという職業人は魔法の指を持っている。
意思的な衣装を纏わず、恩師の作品にあった簡潔と1音が醸す抒情の長さに寄り添うように創り上げた。
選んだ音と空気感は異なるけれど、
持っている抒情に共通点はないけれど、
作曲者は師に思いを馳せている。
回顧的な作品ではあるけれど決してその時代の夜想を描いてはいない。
フォーレの足跡を踏まないように用心深く20世紀の浅い夜に響いてゆく。

ガブリエル・フォーレ/夜想曲第13番ロ短調 op/119

フォーレの夜想曲の到達点。
セピア色に燻された音の詩である。
ホロヴィッツの演奏はちょっと凄すぎるけど、ストイックなほどに一色に塗りこめられている。

Enescu: Piano Works

Enescu: Piano Works

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Accord
  • メディア: CD





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